発刊によせて

 現在,ITが21世紀の経済活動の起爆剤になると期待されている。そのためにはインターネットの普及と同時にソフトやコンテンツの充実も欠かすことができない。これらは多くの人たちが利用して生産性を上げたり,生活を豊かにするのに使われる。また,コンピュータと映像技術の融合が起こり,三次元仮想空間によるリアリティの高いディスプレイも開発されるであろう。このような状況を考えると従来型の銅線をより合わせたツイスティドペアなどでは帯域性に難があり,十分な情報伝達路として機能しえなくなると考えられる。光通信技術はこのような問題をすべて解決できるものであり,すでに情報量の大きい幹線部では全国にその通信網が敷設されている。
 この場合,情報伝達媒体としてシリカガラス系光ファイバが用いられているが,その径は10[以下と極めて細いので特殊な技術者が必要であり,一般家庭において情報端末を購入したからといって,近くの電気屋さんに気軽に電話して接続してもらうことができない。接続コストの低減が一般家庭における高帯域情報端末の普及の「カギ」となり,日本経済再生の大きな要因になると考えられる。一方,高分子は柔軟性が高いので,0.5〜10mm程度のファイバを作製しても,折れて体に刺さるようなことがなく安全である。また,径が大きくなることにより接続が極めて用意になるという利点を有している。もし各家庭に光ファイバが入り込むとするとその需要は莫大なものとなる。すなわち人体に例えれば大動脈系よりも毛細血管のほうがはるかに長いからである。
 このような状況を目の当たりにする今,現状におけるプラスチックオプティカルファイバの技術を総括し,今後の展望を述べることは時期を得ているといえよう。
 本書では,高帯域化に対しては,屈折率を2次曲線的に半径方向に制御したGIタイプの新技術が紹介されている。また従来,プラスチックオプティカルファイバは伝送ロスが大きいので長距離通信には困難であると考えられてきたが,フッ素系高分子ではガラスファイバを凌駕する高性能ファイバに関して開発者自らが貢献している。さらに通信用のみでなく,デコレインョン用ファイバとしての応用についても言及している。また当然,光と物質の相互作用を基礎とした基本的事項に関しても平易に解説しており,まさに基礎から応用までを,わが国の第一線の研究者たちによって書かれている。したがって,高分子の光ファイバの研究を始めようとする初心者からベテランの研究者にいたるまで,発想の源を触発し,さらに研究上の興味を満足させる内容になっているものと信じている。
 最後になったが,本書発行に際して快く原稿を引き受けてくださった執筆者の方々,並びに株式会社エヌ・ティー・エスの皆様,とくに原稿執筆の勇気と気力を与えてくれた,林恵子氏に感謝するしだいである。
東京農工大学大学院  宮田 清蔵
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