監修にあたって

 最近,わが国の産・官・学において,IT,ナノテク,バイオが重要な研究課題として取り上げられている。筆者は1973年の第一次オイルショックの翌年に「機能材料」という概念を提唱し,当時の通産省にわが国の新しい材料開発調査予算を計上してほしい旨の陳情を行い,7年間機能材料全般(センサー機能材料,光機能材料,触媒機能材料,医療機能材料,エネルギー彫像機能材料など)の研究開発調査に携わった。
 超微小化,超薄膜化あるいは非結晶化することによって物質はその物性を変えることが可能となり,機能材料の一つの方向性を見いだすことができる。また,物質のエネルギー変換を利用することも新しい機能材料としての可能性がある。たとえば,さまざまな物理効果や現象,化学反応,バイオメカニズムなどをX軸にとり,Y軸に「材料」を組み合わせると,Z軸に「機能」という現象が発現し,社会のニーズに対応できるという構想を通産省に説明し,予算計上をしていただいたことがある。
 本書のテラヘルツ・テクノロジーは,文部科学省が2005年初頭に発表した今後10年間の研究開発の重要課題として取り上げられているほか,各地の産・官・学においても今後の重要研究開発課題として取り上げられている。
 筆者は20数年前から,21世紀は材料科学・技術を中心に生命科学,情報科学,技術,電子技術,バイオ技術,エネルギー技術が最も重要な科学・技術となることを提唱し,“M-LIEBE”(Menschen liebe:ドイツ語の人類愛を意味し,科学・技術が戦争の手段として利用されないことを願った筆者の造語)の科学・技術が環境・食糧,エネルギーなどの問題を解決してくれるものと期待している。
 本書のテラヘルツ・テクノロジーやセンサー技術は,M-LIEBEの科学・技術全般に関係があり,センサー技術やテラヘルツ・テクノロジーの発展は,M-LIEBEの科学・技術の発展をより加速させる触媒的な技術であるといえよう。
 筆者はまた30数年前より,わが国には石油,石炭,ウランなどの「ハード資源」がほとんどないので,それに代わる資源,すなわち,人材資源やテラヘルツなどの電磁波を「ソフト資源」として位置づけていた。
 その後,筆者は1978年8月に当時の福田赳夫首相から資源調査会専門委員に任命されて以来8年間,資源調査会のエネルギー部会,工業原材料部会および国土資源部会の3部会の専門委員を務めた経緯があり,また同調査会の専門委員在任中に,資源調査会として「電磁波資源」の調査を行ってはどうかと提案した。しかしながら,資源調査会としては適当な部会もなくテーマとして採用されなかった。その後,電磁波のなかの「遠赤外線」や「テラヘルツ領域のデバイス」さらには「極紫外線〜ソフトX線」「準マイクロ波」などの電磁波が大きくクローズアップされてきた。
 そのような情勢から,(社)日本機械工業連合会において産・官・学からなる電磁波応用研究交流会(主査:筆者)が1988年10月に設立され,1991年3月には21世紀の新しい研究開発課題を提言している。
 一方,電磁波のバイオ分野(食品,医療など)への適用が今後発展するものと考えられ,食品分野では,(財)食品産業センターにおいて電磁波利用技術会(座長:筆者)が1987年に設置され,食品分野における電磁波応用の現状と今後の研究開発課題がまとめられている。
 医学・歯学分野においても電磁波は診断や治療に応用されてはいるものの,電磁波のなかでもテラヘルツ帯の電磁波,とくに,赤外光と電波との重複する電磁波の特性がいまだ解明されておらず応用も推進されていない現状から,テラヘルツ帯の研究開発が重要な課題として注目されてきたのである。
 もちろん,テラヘルツ帯の紫外光,可視光,赤外光の領域においても,とくにそれらの光のスペクトルとバイオ・生命分野における作用効果については,未解明な領域も存在しているのが現状である。このような時期にテラヘルツ・テクノロジーを体系的に整理し,その基礎と応用に関する成書が学生はもとより産・官・学の研究開発に携わる関係者にも幅広く利用されることを望む次第である。
 なお,わが国のテラヘルツ・テクノロジーの研究者や技術者のなかには,自らからの研究領域の周波数のみをテラヘルツ・テクノロジーであると主張している人たちもいるが,筆者は,テラヘルツとは,電子磁波の周波数が1012〜1015(Hz),波長で表記すると0.3μm〜0.3mmの電磁波であると考えられている。
 終わりにあたって,この成書にご協力いただいた執筆者各位および(株)エヌ・ティー・エスの吉田隆社長,臼井唯伸副部長,斎藤道代女史に心より感謝の意を表します。
2005年7月吉日
OHT技術士事務所所長
工学博士 技術士(電気・電子) 大森豊明
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