はじめに

 エネルギーについて論ずるにあたって、われわれの身体ののしくみに目を転じて考えてみたい。われわれの身体は、生物活動を行い生命を維持するために長い年月をかけて効率的なエネルギーシステムを作り上げてきたが、その高度さには目を見張るものがある。体内のエネルギー生産と供給には、ATP(アデノ三燐酸)といういわばエネルギー貨幣が使われているが、そのATP生成には有酸素反応と無酸素反応の2つの方法がある。
 持続的で大きなエネルギーを必要とする運動(有酸素運動)には、呼吸により取り入れられた酸素を使った有酸素反応によりエネルギーが生成される。この反応では1つのブドウ糖から38個ものATPが作られるが、その速度は遅く瞬発力やパワーを必要とする運動には対応できない。瞬発力やパワーを必要とする運動(無酸素運動)時には、無酸素反応により筋肉にあるブドウ糖を使って即座にエネルギーが生成される。瞬時に大量のエネルギーを供給できるが1つのブドウ糖からは2つのATPしか生成できないので、すぐに供給できなくなる。人間はこの両者をうまく使い分けながら、あらゆる動作に対応したスムースなエネルギー供給を可能としている。
 次世代高容量キャパシタは、高出力、高サイクル性、高安全性、良好な温度特性など、多くの利点を有しており、その特性は同じ蓄電デバイスであるリチウムイオン電池と全く好対照な位置にある。この好対照な2つの蓄電デバイス(電池とキャパシタ)は、実は人間の体内のエネルギー供給システム(有酸素反応と無酸素反応)に対応しているといえる。電池とキャパシタの両者を組合せて用いるシナジー効果は極めて高い。2つの好対照なエネルギーデバイスを絶妙に組合せることにより、あらゆるエネルギーマネージメントが可能となる。
 本書が紹介する電池とキャパシタの補完に関する実用例は益々増えつつあり諸分野に波及している。また、電池だけではなく、燃料電池やインバーターとキャパシタを組合せることによる絶妙なエネルギーシステムも注目を集めている。できるだけ化石燃料に頼らない、できるだけCO2 などの温室効果ガスを排出しない実効性のある環境に優しいエネルギー対策を考えるとき、このような複合的エネルギー貯蔵システムの発展は、日本にとって大きな戦略となると思われる。

2009年8月
直 井 勝 彦 ・ 西 野 敦
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