触媒からみる二酸化炭素削減対策 2019 〜メタン、CO2、水素戦略〜
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世界各地で頻繁に起こり始めている異常気象現象は、地球温暖化が原因と考えられている。地球温暖化の人類にもたらす脅威は現実のものとなりつつある。2015年のCOP21(パリ協定)では、世界のほとんどの国が集まり、すべての締約国は、地球の温度上昇を産業革命前から2℃上昇より下方に抑え(2℃目標)、さらに1.5℃上昇まで抑えるよう努力することに合意した。日本は、CO2の排出量を2030年には2013年比26.0%減にする中期目標を掲げている。さらに日本を含む世界の主要排出国は、長期目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すことに合意している。
 一方、先進国のエネルギー需要は、省エネルギーにより僅かに減少してはいるが、新興国の経済発展は著しく、エネルギーの需要は急速に増加し、石油の需要は増加している。安価な石炭の需要もなくならない。CO2を削減するには、CO2を発生する化石資源は使わずに残さなければならない。しかし、そのためには再生可能エネルギーが安価に多量に供給されなければならない。バイオマスは資源的に多くなく、エネルギーとして大量に用いると自然破壊につながる恐れがある。太陽電池が一部普及し始めたが、現状では、安価に多量に供給できる状況にはない。CO2を地下に埋設貯蔵するCCSは、量的に制限があることと本当に安全か疑問である。その中で唯一、可能で実際的な解決策は、CO2の排出量の少ない天然ガス(メタン)の利用である。幸いなことに天然ガスは、米国のシェールガスだけでなく世界的に埋蔵され、石油の数倍はあることが確認されている。いずれ今世紀後半か22世紀までには水素社会の到来を実現しなければならない。エネルギーとしては、再生可能エネルギーの供給が可能になる前に、まず、安価でCO2の排出量の少ない天然ガスを用いなければならない。また、化学品原料としてもCO2排出量の少ない天然ガスを用いなければならない。更に、二酸化炭素をCCSで削減するのではなく、CCUによって再利用しなければならない。来るべきCO2フリーの世界を目指してCO2の有効利用を図るには、CO2の還元剤としての水素の製造が必須である。そのためには下記の3つの技術開発を急がなければならない。
 1)天然ガスの利用(CO2排出量の抑制)、2)CO2の利用(CCU)、3)安価なCO2フリーの水素の製造
 絵に描いた餅のような技術ではなく現状の工業触媒技術の観点から実現可能な最新の技術開発動向をまとめた。次世代につながる技術が開発されることを願ってやまない。
室井城
触媒からみる二酸化炭素削減対策 2019
〜メタン、CO2、水素戦略〜
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