触媒からみる炭素循環(カーボンリサイクル)技術 2021
==発刊にあたって==

 2020年の世界経済成長率は、COVID-19パンデミックのために前年比マイナス約3%と落ち込み、二酸化炭素の排出量は減少し、地球温暖化は僅かに先に延びたかに思える。しかし、世界経済は、2021年の後半には回復すると予想され、再び温暖化への道を歩み続ける。パンデミックは、経済成長を鈍化させ、地球温暖化対策は停滞すると思われたが、EUは、COVID-19を逆手にとって経済を立て直すために2050年までにEU域内の温室効果ガス排出を実質ゼロにする「欧州グリーンディール」政策を打ち出し、今後10年のうちに官民で少なくとも1兆ユーロ規模の投資を行う計画を発表した。中国の習近平国家主席は2020年9月に二酸化炭素排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までにCO2排出量と除去量を差し引きゼロにするカーボンニュートラルを目指すことを表明した。韓国の文在寅大統領は、10月に温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現を目指すと表明した。続いて日本の菅総理は2050年カーボンゼロを宣言した。米国はバイデン政権になり2021年1月パリ協定に復帰した。これにより、世界の温暖化対策は、大きく前進することが予測される。日本は未だ、カーボンゼロの具体的に施策は打ち出していないが、従来の温暖化対策を加速転換しなければならない。CO2削減には、CCSや炭酸塩などへの固定も考えられるが、日本では困難であり、削減できる量も限定的である。EUは、グリーンディールで水素社会に大きく舵を切った。日本は海外で化石資源を用いて水素やアンモニアを製造し、輸入する計画を進めてきた。しかし、化石資源を原料とした水素は、EUの言うグレー水素である。グレー水素はCO2削減にはならない。グリーン水素を使えるようにならなければ本当の水素社会と言えない。地球温暖化以外に、廃プラスチックの汚染が新婚な問題となっている。廃プラスチックは焼却処分して熱回収するのはリサイクルとは言い難い。液化又はガス化して化学品原料としてケミカルリサイクルされなければならない。日本では、今までに多くの可能性のある地球温暖化対策の研究が総花的に取り上げられて来た。しかし、もうその時間的余裕はなくなってきた。この先10〜20年でやらなければならない具体的な解決テーマを時間軸とCO2削減量の大小に分けて、テーマを決めて、それに集中しなければならない。拙書が、これらの研究の方向に少しでも役に立てれば幸いである。

室井城
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