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まえがき
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21世紀は、環境の時代である。エネルギー問題、地球温暖化、環境汚染を解決するための一つの解決策として、「水素」への期待が非常に高まっている。つまり、「水素」はエネルギーの移送、あるいは発生媒体としての利用が考えられる。例えば、日本で実用化されたニッケル水素化物電池をはじめとして、燃料電池の利用が格段に広がるとともに、今後近い内に水素燃焼タービン、水素自動車、ヒートポンプ等が実用化されるであろう。水素吸蔵合金は水素貯蔵に用いられる可能性が高いが、そればかりではなく、吸蔵する際の水素と重水素あるいは三重水素(トリチウム)間の同位体差を利用して同位体分離に利用することができる。また、濃縮した重水素やトリチウムは、各種トレーサー実験だけでなく、次世代エネルギー源となるべき核融合炉のための燃料に用いられる。なお、核融合炉プラズマ研究に関しては、現在日本、米国、欧州、ロシアの4極を中心に国際共同研究が行われており、幾多の成果が挙げられている。
天然水素中には約150ppmの燃料の重水素が含まれているが、水素吸蔵合金の吸蔵作用と同位体効果を利用して、小規模かつ迅速に、常温・常圧に近い状態でしかも高い濃度で分離するのが理想である。しかし、過去に工業的成功例がない。それは、水素同位体が同じ水素としての化学的性質を有し、同位体間の吸蔵能力の差がそれほど大きくないことによる。このため、従来の装置設備ではかなり規模が大きくならざるを得ない。
これを小型化するためには、同位体混合をできるだけ回避する方法を実証し、かつ装置内の水素同位体濃度変化をできるだけ正確に把握し、濃縮を効率化することが必要である。本書では、その具体的な方法を紹介することにとどまらず、関連する研究をできるだけ広く集め系統的にまとめることに主眼を置いた。これによって、基礎から先端的応用分野まで、できるだけ広くかつ平易にまとめたものとして、社会人技術者、研究者、大学院学生のみならず、知識欲の高い学部学生にも広く利用していただけるのではないかと考えている。
全体は6章から成り立つが、第2章では分離の基礎として金属―水素間の平衡関係、第3章では水素吸蔵と拡散の同位体効果と同位体分離係数、第4章では同位体交換プロセスについて、最新の成果を含めできるだけ詳しく説明した。応用研究として、第5章と第6章の解析と試験結果を詳しく説明した。
したがって、本書は最初から読み進めていただかなくても、必要個所を読めば理解し今後の研究や技術的開発に役立てていただけるものと思われる。また参考文献もできるだけ原著論文から数多く引用し正確を期すことに心がけた。
本書をまとめるきっかけとなったのは、著者が試作研究を実施している「金属粒子を充填した間欠向流型水素同位体分離装置」を通じてである。関連する周辺研究がかなりの点数に上るにもかかわらず、基本的な成果をまとめた専門書が和、洋書を問わずほとんど見当たらなかったからである。
本書の一部は著者とその当時の大学院学生との共同でおこなった実験と解析結果を整理したものであるが、さらに関連する研究を大幅に加え系統的にまとめて実現に至った。材料科学、物理化学、化学工学、原子力工学などの最小限の基礎知識があれば、十分に役立てていただけるものと確信している。
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2000年4月 深田 智 |
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