発刊にあたって

 1950年代は,防脱臭技術といっても,水洗浄法か,よくてアルカリ洗浄法くらいなものが現場ではみられた。悪臭というよりは,有臭・有害ガスの比較的局地的な,大気汚染の現象として扱われていた。
 1960年代に入って,わが国は,めざましい高度経済成長を遂げたが,一方では,大気汚染や水質汚濁などの公害が大きな社会問題となり,国で一元的な法律がつくられ始めた。1967年に,公害対策基本法が制定,公布され,悪臭も公害の一つと定義されたが,法規制には至らなかった。悪臭は,測定・評価方法と防脱臭方法が難しいことと,生活環境の保全が目的で健康の保護を目的とする法の強化が急がれたことによる。しかし1965年頃から,全国各地で化製場ヤクラフトパルプ,石油精製や各種の化学工場などからの悪臭が大きな社会問題となって法による規制を望む声が多くなった。
 1970年第64臨時国会(いわゆる公害国会)で,公害関係の14の法律の制定や改正が行われたが,悪臭防止法は,翌年の1971年6月1日に公布された。この頃は,悪臭苦情件数は2万件を超え,畜産農業や各種製造工場に起因する苦情が80%以上あった時代であったが,本格的な防脱臭村策との取組みが始まり,防脱臭技術に格段の進歩,発展が見られるようになった。
 主な防脱臭技術としては,燃焼法,洗浄法,吸着法,生物脱臭法,消・脱臭剤法があり,業種別にみて,ある意味で適用される悪臭防止技術が確立されているものは,化製場として,フィッシュミール工業(魚腸骨処理),レンダリング工業(へい死獣や獣滓処理),フェザー工業(羽毛や食鳥滓や廃鶏処理)やブラッドミール(血液処理)をはじめ,各種化学工場,都市清掃施設としてのし尿処理場や下水処理施設,規模と畜種で異なるが養豚,養鶏,養牛の畜産業や各種コンポスト化施設,さらに塗装や印刷業から最近は浄化槽,ビルピットやレストラン,飲食店などである。これらの業種に対応する防脱臭技術は,単独か組合せで適用され,この方法がベターという方向づけはできている。ただ同一業種でも,苦情の内容,対策の目標・行政指導の差異から,かけうる費用と管理技術のレベルや立地条件とスペースの問題もあって,どの技術を選択するかで,ベスト,ベター,グッドの差異が生ずる。
 平成7年4月に,悪臭防止法が改正され,嗅覚測定法による臭気指数規制が導入され,ますます臭気問題の特性に村応した防脱臭技術の進展が望まれる昨今である。
 悪臭防止法施行から25年を経過し,確立されたといわれる主な防脱臭技術について,現在わが国でトップ級の実績をもっておられるメーカーの技術部門リーダーの方々にご執筆をいただいた本書は,今までの集大成といえる内容であり,臭気問題と取り組まれる方々にとって非常に役立つものと確信している。
 おわりに 編集委員として,ご尽力いただいた,安藤忠夫氏,出雲正矩氏,小松繁氏,鈴木邦威氏・高山弘氏,林浩昭氏に感謝申し上げるとともに,本書が完成するまで,ご努力をいただいた(株)エヌ・ティー・エスの松風まさみ氏に厚くお礼申し上げたい。
1997年9月  監修者 石黒辰吉
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