“まえがき”より抜粋

 色に関する科学的な研究の蓄積をみると、はなはだ多彩である。伝統的な学問の区分からも、物理学、化学、生理学、生物学、心理学、さらには芸術学の広きに及ぶ。しかも、基礎的な原理研究から、工業生産における問題解決あるいは応用研究、ひいては美術・工芸・デザインにおける表現等々の多岐にわたる。さらには、生活のなかで経験する色彩現象への素朴な疑問から商品の色彩選択まで、色彩に関する論議は尽きない。したがって、この分野に伝統的な学問のように完成度の高い体系を求めることは、少なくとも現段階では困難である。色の研究は本来きわめて学際的な存在である。
 このような性格をもつ色彩に関する膨大な知識の集積について「百科事典」を、しかも限られた紙幅で編むことは至難である。そこで本事典では次の4編に分け、記述の仕方ないし視点を変えてまとめる方法をとった。
(1)色彩科学から生活における色の使い方の基本まで、全体像と最近の動向とを俯瞰する「総論編」
(2)総論編で述べられなかった部分を補完しながら、概念を簡明に解説した「用語編」
(3)色を説明する語彙であるとともに、色についての文化社会的伝統の反映でもある色名を解説した「色名編」
(4)心理学的実験・調査データ、環境の測色データ、歴史的な慣習や規定など、データ類を多角的に集めた「資料編」
 すなわち、色彩学概説、用語辞典、色名辞典、資料集成を1巻に納めて、色に関する必須の知識を効率よく整理した。各編間の有機的な関係には配慮し、索引の充実に努めたので、関心と必要に応じて索引を有効に活用していただきたい。
 日本色彩研究所は1927年創立以来、基礎的研究、教育、産業界の問題解決等、学会・産業界との密接な関連のもとに研究活動を展開してきた。色彩工学、色票製作、心理学研究、デザイン、教育など色彩研究を構成する諸分野をそれぞれ専門とする広範なスタッフを擁している点はひとつの特色である。
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