『動物実験手技集成』発刊に際して
 実験動物を用いた動物実験は,医薬品,医療機器などの開発に貢献し,再生治療研究などの新しい分野の医学の発展に大きな役割を果たしている。
 また,動物実験は開発された新しい治療法・医薬をヒトに適用する前の前臨床試験として欠くことの出来ないものである。加えて,開発された新しい治療法や医薬品が動物自身の健康と福祉にも多大に貢献している。
 実験動物を使用するに当たっては,動物の福祉と人道的取り扱いを常に心がけ,3R の基準についての理念に基づいて実験を行うべきである。3R とは,1959 年にイギリスの研究者(Russell and Burch)により提唱された 1)Replacemen(t 代替):意識・感覚のない低位の動物種,in vitro(試験管内実験)への代替,重複実験の排除,2)Reduction(削減):使用動物数の削減,科学的に必要な最少の動物数使用,3)Refinemen(t 改善):苦痛軽減,安楽死措置,飼育環境改善などを示す。
 特に,代替法のない動物実験に従事する者としては,手技の向上に努力することはもちろんのこと,動物に対する苦痛・侵襲および多数例の犠牲死を出来る限り少なくすることを心がけねばならない。
 動物実験の基本的,応用的手技としては,薬剤の経口投与法,静脈内投与法,種々の採血法,臓器摘出法ならびに数多くの安全性薬理実験法などが多くの著書によって紹介されている。
 この度の発刊は,ラット,ブタ,サル,イヌを対象として,血管確保の簡便法,カニュレーション法といった基本的手技から心筋梗塞や脳梗塞モデルの作成法など,一歩進んだ外科的手法を中心に構成を行い,それを映像とテキストで解説・紹介することで手技を,より理解していただける内容にしたつもりである。今後,再生治療法などの新しい治療法や医薬品および医療機器の研究開発に少しでも役立てていただければと考える。

国立循環器病センター 研究所 先進医工学センター 放射線医学部
寺本 昇
推薦のことば
 近年,トランスレーショナルリサーチが声高に叫ばれ,これまで基礎研究のみにとどまっていた研究には,臨床への出口が必要となってきている。こういう情勢の中,大動物モデルを用いた研究は,前臨床試験として,大変重要な位置を占めており,今後必要性が増すものと思われる。
 大動物実験を行ううえで,大動物の扱い方,麻酔の導入方法,基本的な手術手技は,適正な結果を出す上で重要な技術であり,動物愛護上,極めて欠くことのできない要素である。
 本書は,大動物実験のノウハウを熟知した著者が,これまでの経験を生かして,動物実験の実際を懇切丁寧に説明した教育書であり,本書の技術を遂行することにより,適切な大動物実験が可能になると思われる。本書は大動物実験を行う方々の実践的な教育書であり,今後的確なトランスレーショナルリサーチが行われることを希望し,本書を推薦する。

大阪大学大学院 医学系研究科心臓血管外科 教授
澤 芳樹
 近年のバイオマテリアル研究では,材料と細胞との相互作用を遺伝子発現プロファイルを指標として活発に検討されているが,そのin vivo 評価は,なかなか進まない。もちろん,生体の複雑な応答を制御するのが最終目的であるが,施設や実験系の問題,また,手技的にも十分な経験が必要とされるなど,動物を用いた評価は避けられる傾向にある。本書は,初心者にも判りやすく動物実験手技が解説されており,多くのバイオマテリアル評価のための基礎的実験方法が網羅されている。動物に不必要な苦痛を与えることなく最小の侵襲度と例数で目的を達成するためにも,是非参考にされたい書である。

国立循環器病センター 研究所 生体工学部 部長
山岡哲二
 医薬品の開発には,ヒトへの応用の前段階において,実験動物が重要な役割を担う。ことに疾患の病態を反映する動物モデルは病態の解析,治療薬の評価,効果発現機序の解析,新しい治療戦略の構築などに極めて有用である。実験動物から信頼性の高い成績を得るためには,倫理的な配慮の下,適切な動物実験の実施が求められるが,高い実験手技を身につけた実験者が実施することも不可欠である。しかしながら,動物実験手技の修得に役立つ資料は必ずしも多くはなく,限られた情報を基に,模索を繰り返すことが少なくないと思われる。
 本書はラット,ブタ,サル,イヌなどを用いる動物実験の手技の確立を目指す実験者に極めて有用な指導書であり,また,幅広く動物実験についての知識を求められる動物実験技術者の参考書としても有用であると思われ,推薦する次第である。

岐阜薬科大学 機能分子学大講座 薬理学研究室 教授
稲垣直樹
 新規治療薬の開発や再生医療の評価において,実験動物の生理機能や分子レベルの病態を,限りなく無侵襲かつ繰り返し観察することができるPET,SPECT,あるいはMRI イメージング手法が推奨されている。従来よりも少数の個体数で有効性や安全性の評価が行えることが利点である。この中で,病態モデル動物の作製や,実験中の種々な実験手順について,標準化することが強く望まれている。本書は,寺本昇氏の長年にわたる経験をもとに実験動物の扱い方から高度な病態モデルの作成技術に至る技術手技を,詳細にわたって集大成した本手順書である。これから実験動物のイメージング評価研究を実施する研究者および技術者にとって大いに参考になることを期待し,推薦するものである。

国立循環器病センター 研究所 先進医工学センター 放射線医学部 部長
飯田秀博
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