発刊にあたって
 本書は日本生理人類学会の編集による「ヒトのカラダ」の百科事典である。人体の生物学の中でも、特に、生理人類学の視点が強調されている。ヒトのカラダについての社会的関心は高い。新聞やテレビでもよく取り上げられている。しかし、分かったようで分からないという感想が少なくないようだ。確かに、ヒトのカラダは分かりにくい。この分かりにくさと格闘している生理人類学の立場から、できる限り分かりやすく、そして、面白くと、欲張った記述を目指したのが本書である。
 本書は15の章立てで構成されている。各章の各項目内で、それぞれに関わる全身的協関・多型などが記述されているが、他章の記述も参考にして頂けたら幸いである。
 生理人類学を含めて生物科学は新しい事実の発見とそれに基づく新しい理論の構築を重ねて進歩してきた。事実の発見による進歩は機能生物学と呼ばれる諸分野により貢献し、新しい概念の構築は進化生物学の諸分野の進歩に大きく関わってきた。両者が相まって、生物科学は発展してきた。ヒトのカラダの理解は事実の発見と概念の構築によってより完全なものとなり得る。人間性の本質もこのような探究によって進展するはずである。
 生理人類学が対象とするヒトはベッドに横たわって計測されているヒトではない。一人ひとりが個性豊かな毎日を暮らす生活者としてのヒトである。そのため、この科学には人間に最適な環境や製品の開発に必要な情報の発信が期待されている。生理人類学者は、社会的ニーズに応え得るべく、ヒトのカラダを真に知る活動を続けている。本書にはその活動が記されている。

【『刊行にあたって』より抜粋 編集委員長 佐藤 方彦】
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