刊訳者のことば
20世紀半ばのDNA二重らせん構造の発見とそれに続く分子生物学の発展は、多様な生物における多様な生命現象を進化という観点から統一的に理解する道を開いた。それ以後の、とくに20 世紀末から今日までの生物学の発展は、まさに日進月歩である。その間にもたらされた生物学上のさまざまな発見は、単に生物学者の関心事にとどまることなく、生物学が医療や産業技術、エネルギー問題、地球環境など、人類の福利と生存に直結する問題と深いかかわりをもつことを私たちに示してきた。たとえば、臓器移植、代理出産、再生医療などの先進医療技術とそれにともなう生命倫理の問題、バイオエタノールと食糧問題のかかわり、温室効果ガス、生物多様性の保全と生物資源の持続的利用などは、新聞やテレビで頻繁に取り上げられている話題である。これらの問題に対して正しく判断し、必要な行動をとるためには、生物学の基本的な重要概念をできるだけ共有することが必要とされている。理科系・文科系を問わず、日本の高校生や大学の学生ひとりひとりが、本書を通して現在までに得られている生物学の重要な基本概念を積極的に学び取り、自ら生物学と社会のかかわりについても考え、自分自身の世界観・自然観を構築してほしい。
キャンベル生物学 原書9版 Copyright (C) 2012 NTS Inc. All right reserved.