発刊によせて

 マン・マシーンインターフェイスとしての表示素子デバイスの重要性は,今まで以上に大きくなってゆくと考えられる。この流れは大別して2種に分類される。一つは公共の場や家庭内における表示デバイスである。例えばテレビジョンに代表されるものであるが,これは大画面,高品位化への指向である。一方は今後爆発的に伸びる分野で,パーソナルユーズである。この場合はコンパクトで軽いという特徴が必要不可欠である。
 いわゆるテレビと呼ばれているCathode Ray Tube(CRT)は高真空下で電子を蛍光物質に当てることにより発光させている。したがって大画面とするためには電子の振れ角を大きくする必要がある。この角度は磁気的に制御されるがそれにも限度があるので,大型化するためには奥行きを深くする必要がある。この場合CRTの設置面積が必然的に大きくなる。その結果CRTの全表面積が大きくなる。大気下では約1Kg/cm2の圧力がかかっているので莫大な力がこれに加わる。これに対抗するためにCRTを構成しているガラスを厚くする必要があり,その結果一人ではとても持てない重さとなる。これを支える台なども強くしなければならず,トータルとしての資源を多量に使うことになる。また電力の消費量も多くなる。
 これらの問題を解決するものとして最近プラズマディスプレイが高品化された。大画面薄型であるが作製上の問題から価格が小型自動車一台分にも相当し,普及にはコストダウンが必要である。また消費電力の低減にも問題を残している。極く最近新しい表示デバイスとしてフィールドエミッションタイプのものが発表されている。これには電子銃が用いられるがそこにカーボンナノチューブが大変有望視されている。
 一方パーソナルユーズとしての表示デバイスには液晶ディスプレイが盛んに用いられている。これは今後も伸びると思われるが光源としては細い蛍光灯が使われている。これには偏光板や液晶素子,カラーフィルター他,その他各種のフィルムが用いられているので,光線利用効率が極めて悪いという点がある。実際ポータブルコンピューターにおいて電池の消費の大部分は表示のために消費される。
 これらすべての問題点を解決できる可能性があるのが有機電界発光(EL)素子である。もともとEL素子に関する研究は硫化亜鉛のような半導体に交流電場を印加して発光させる方式に関するものであった。この場合発光輝度が低い,高電圧印加が必要,発光色が自由にできないなどの問題で現在あまり研究がなされていない。
 1977年に後に詳しく述べられているようにコダクス社のTang博士らが複数の有機薄膜を重ねたいわゆる機能分離形EL素子が低い直流電圧で高い発光輝度を示すと報告して以来世界各地で研究されるようになった。
 有機材料としては欧米においては主として導電性高分子が,日本では色素薄膜又はこれらを高分子に分散した系がよく研究されている。当初は素子寿命が短いことが大きな問題であったが新材料の開発及びパッケイジングの技術の向上により今では一万時間を越える素子が作製されている。  また最近パイオニア社では2000年よりフルカラーのELデバイスを高品化すると新聞発表を行なった。
 このように述べると有機ELの技術はもう完成しているように思えるかもしれないが,更なる寿命や効率の向上,より鮮やかな色調また真空系を使わないファブリケイションプロセスなど,改良する点はまだ多い。本書ではこのようなことを考慮して現状における有機EL素子に関する問題点を明らかにしてそれを克服可能なアイデアを満載すべく編集した。
 この問題にたずされる研究者の一助になれば幸いである。
1998年11月  監修者 宮田 清蔵
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