編集にあたって

我々にとって冷蔵庫、テレビ、電子レンジはもちろんパソコンや携帯電話等がない日常生活は、もはや想像できません。このような快適な生活を支えている器具は、20世紀の科学技術の発展に基づく各種素材を出発点にした「物造り」の成果です。その素材の中心は金属で、この金属資源が「有限」であることを我々は何となく理解していますが、必ずしも現実問題として正確に把握していない傾向があります。しかし、金属素材の現時点での生産量と推定されている埋蔵量との比較から算定すると、亜鉛や銅は約50年、ニッケルやマンガンは150年、アルミニウムや鉄は約250年と、金属資源の枯渇が予想以上に早いという結果が得られます。
 一方、鉱物資源から必要な金属素材を取り出す際に必ず廃棄物が出ますし、使用済み材料も廃棄物となっています。この廃棄物の急速な増加が「環境」問題を引き起こしていますし、やっかいなことに「資源と環境」問題は地球規模(グローバル)という広域にわたる課題です。したがって、20世紀に我々が快適な生活と引き換えに起こしてしまった「資源と環境」問題について、21世紀には真正面から対峙しなければならないと思います。すなわち、21世紀は、極少量で目的の性能を確保できる物質・材料の超高機能化とともに、金属素材の使用量そのものを低減することや、「物造り」では使用済み材料を含め廃棄物の資源化や素材再生を必ず考え、「廃棄物→素材」あるいは「廃棄物→資源」等の循環型の流れを完成させることが必須です。これらの21世紀のキーテクノロジーを検討する場合に必要な情報を多くの方々に提供するため、日本金属学会では2000年5月に「改訂6版金属便覧」を出版しました。日本金属学会では、この金属便覧と相補的関係にある「金属データブック」についても内容の更新等を検討し、「改訂4版金属データブック」の出版を企画しました。
 全般的には、改訂3版のデータを最新のデータに置き換える更新作業を中心に進めましたが、本書では、新たにセラミックスと液体金属との濡れ性、粘度、表面張力、熱拡散率データ等の追加、リードフレーム材料、ナノ結晶材料データの追加、医療材料の大幅追加、あるいは鉄鋼材料、非鉄材料、焼結材料、溶接・加工、材料試験等に関係するデータは、新たなJIS規格と照合してデータの数値更新を行いました。また、鋼の焼入性曲線、鉄鋼の恒温変態図・連続冷却変態図は大幅に追加しましたが、二元系合金状態図は工業的に重要な8種類の金属に限定する変更を行いました。本書では、利用者の便宜を図るため、事項索引のみでなく、材料あるいは規格索引も整備されています。
 本書が、改訂6版金属便覧とともに図書館のみでなく、実験室等の片隅に置かれ、金属分野に関わるエンジニア・研究者あるいは大学院生・学生の、実験結果の解析や新たな物質機能の予測・プロセス開発等の検討に、常に活用されることを願っています。
社団法人 日本金属学会 改訂4版 金属データブック編集委員会 委員長 早稲田 嘉夫
Copyright (C) 2006 NTS Inc. All right reserved.