= 刊行にあたって =

 溶液中で数ナノメートルまでナノコロイド化した半導体量子ドットは、1990年代から合成・評価技術やその応用に関する研究が盛んになり、主に基礎物性評価や量子論的な原理解明、バイオイメージング用途での研究開発が進められてきた。近年では、ディスプレイや照明といった新しい発光素子用途への市場展開が期待されるようになり、更なる研究開発の盛り上がりを見せている。特に、この20年ほどの間で進展してきた液相合成手法やフィルム化の目覚ましい発展により、半導体量子ドット自体の結晶構造や有機配位子だけでなく、量子ドット中の原子数に至るまでの精密な制御技術が可能になってきた。そのため、「ナノ粒子科学」と呼ばれる新しい学問分野が発展してきて、量子力学に基づいたバンド理論だけでなく、半導体量子ドットの組成・構造とその光学・電気物性や機能相関を議論できるようになってきた。
 一方、半導体量子ドットは従来の有機化学や無機化学で考えられてきた「原子」や「分子」という概念では理解できないことも多い。そのため、本書ではナノ粒子の科学および応用例としてディスプレイに特化して、その基礎や応用展開に注力した構成になっている。具体的には、原子とバルク材料の中間領域で特異的なバンドの形成やその光学特性、粒子間をホッピングするキャリア伝導機構、表面欠陥に由来する発光強度の低下など基礎的な学問や実用面で大きな課題となっている。これらの内容を総合的に網羅して、多くの学生やアカデミアの研究者、企業の開発者などに理解して頂くために編まれたものである。近年では、本書で取り上げたディスプレイ用途以外にも、照明やバイオイメージング、薄膜太陽電池などの展開も更なる進展を見せており、世界中で急速に研究が進展し、今後の飛躍的な発展が期待される新材料であると言える。
 本書では、コロイド半導体量子ドット・マイクロLED ディスプレイの基礎から応用展開・市場動向について、本分野で日本を代表する研究者に解説して頂いた。これらの分野は特にディスプレイの高精細化が求められている昨今では重要な技術となっており、紙面の都合で全てを網羅できている訳ではないが、ナノ粒子に関連する方だけでなく幅広い読者にも興味を持って読んでいただけるのではないかと思う。最後に、大変お忙しい中にも関わらず、本書に素晴らしい記事を寄稿して頂きました先生方に、編者を代表して御礼申し上げます。
福田武司(埼玉大学)
 
量子ドット・マイクロLEDディスプレイと関連材料の技術開発 PDF版 Copyright (C) 2018 NTS Inc. All right reserved.