発刊にあたって

 熱工学の飛躍的発展が,オイルショックを乗り越えるための省エネルギー技術として大きな役割を果たし,また,エネルギー技術の発展が,熱工学の学問としての確固たる地位を築くこととなった。その結果,現在,熱工学は,生産工学,生物工学,精密工学,環境工学などの従来どちらかといえば熱工学とは距離のある分野へ浸透し,熱工学の重要性が各分野で認められ成果を挙げはじめている。これまで,熱工学の役割は,熱効率を向上させエネルギーの有効利用をすることに目が向いていた傾向があり,その一つの成果が省エネルギー技術として大きな働きをしてきた。
 しかし,地球温暖化など環境問題が持ち上がり,人間の生活,地球の存続に関わる人類がこれまでに遭遇したことのない大きな問題が提起された。環境問題は,多消費型エネルギー利用が原点にある。21世紀に向けてのエネルギーの有効利用は,従来のように効率向上のみでは許されず,特に環境問題を視野に入れた技術の構築が重要な課題となってきた。特に,環境問題を解決していく上で考えておかねばならないことは,オイルショック脱出には省エネルギー技術と短期的視野の市場経済とが結びついて大きな効果をもたらしたのに対して,環境問題は同じ線上にはないと言うことである。その違いの第一は,短期的視野での経済効果では解決できず,より長期的な視野が必要であることにある。第二は,省エネルギー効果が,一国,一社などの局地的にでも可能であるのに対して,環境問題はよりグローバルな観点からの対応が必要である。したがって,環境問題は取り組む当事者にその効果が見えにくく取り組みへの動機が薄れる危険性を含んでいる。これをいかに解決するかは,少なくとも,都市,国の単位,最終的には国際間の協力が不可欠である。そこには,社会環境,国家経済,文化,教育などの多くの問題が関係してくる。
 このような状況の下で,これまでに築いてきた伝熱技術,特に省エネルギー技術を基盤として環境問題を考えに入れた熱エネルギー技術を集大成した表記の新技術大系を出版しておくことは,法人団体として新しい歩みを始めた伝熱学会として,また次世代への社会に対して果たさなければならない役目でもある。
 
 本出版物は,出版委員会の先生方と検討した結果,全体は,第1編基礎編,第2編機器編,第3編実用編の3編から構成することにした。まず,基礎編では熱エネルギーの省エネルギー・環境的観点からの取り扱いの基本事項に触れ,続いて機器編では実際に使用される環境調和型の機器要素を取りあげ解説をし,最後に実用編では実際に使用されている機器システムを取りあげて,それらの実例を用いて省エネルギー・環境への有効性を示すことにした。
 
 上記のような主旨のもとに,各分野で学問的また技術的にご活躍の方々に執筆をお願いした。したがって,本書の内容は,省エネルギー技術や環境技術に携わる研究者・技術者に大いに役立つものと確信している。
 
 最後に,お忙しい中を本書に御協力くださった執筆者の方々ならびに出版に対して多大の労をとって下さった(株)エヌ・ティー・エスの方々に監修者として心から謝意を表す次第である。
1996年8月   監修者 黒崎 婁夫
推薦のことば

 近年,環境問題を契機としてのエネルギー分野の発展,進歩には目覚ましいものがあり,化学・工学,さらには理学における様々な研究成果を吸収しつつ,正に新エネルギー技術大系と呼ぶにふさわしい領域を確立しつつあります。
 現在の新/省エネルギー技術への要求はオイルショックを背景として生まれたエネルギー危機とは様相を異にし,地球上で暮す私たち人類の倫理・思考の変革をも促すものといえ,現在の市場経済に適合するだけが,必ずしも技術の方向を決定づけるものではないことが特徴といえるのかもしれません。それだけに従来の方法で技術の成果を積み上げるだけでなく,エネルギーにかかわる科学・技術の基本にたちかえりつつ有効な解決策を見いだす努力や新しい視点が求められているのではないでしょうか。
 この様な背景のなかで,本書『環境と省エネルギーのためのエネルギー新技術大系』が,(社)日本伝熱学会の記念事業として企画され,このたび関係者の多大な努力の下,2年あまりを費やして刊行される運びとなりました。
 本書は,第T編基礎編,第U編機器・技術編,第V編実例応用編の三部で構成され,各編とも現在の技術を集約するとともに,最新の成果を網羅したものであるばかりでなく,環境問題とエネルギー問題の調和を図るという21世紀を迎える産業社会がかかえる課題の解決への指針となるものであり,現在のエネルギー問題に取り組む研究者ならびに技術者にとって,誠に時機を得た出版であり,必ずや座右の書として役に立つものと確信するものであります。
 ここに,(社)日本伝熱学会の会員のみならず,広く国内外の研究者,技術者にご推薦申し上げる次第であります。
1996年8月   (社)日本伝熱学会 会長 越後 亮三
環境と省エネルギーのためのエネルギー新技術大系

(社)日本伝熱学会編  黒崎晏夫監修
 近年環境問題を契機としてのエネルギー分野の発展進歩には目覚ましいものがある。熱工学の飛躍的な発展は、かつてオイルショックを乗り切るための省エネルギー技術として大きな役割を果たした。
 現在の地球環境問題は多消費型のエネルギー利用が原点にある。従って、二十一世紀に向けてのエネルギーの有効利用は、オイルショックを脱出した省エネルギー技術を短期的視野の市場経済への効果という供給問題解決の局面とは異なり、エネルギーの使い方の問題として、より長期的な視野で、かつグローバルな観点からの対応が必要である。
 「環境と省エネルギーのためのエネルギー新技術大系」は、従来熱工学とは距離のあった分野である生産工学、生物工学、精密工学、環境工学などへの関連を求めて編集され、来たるべき二十一世紀への地球環境問題解決の一助になるであろうことが期待される。
 本書の基礎編では環境調和型熱エネルギーの基礎(法背景を含む)、環境調和型熱エネルギー変換、高効率エネルギー移動・制御、エネルギー貯蔵について著述。それぞれについて機器・技術編、実例応用編がある。発刊以来半年間、広く関係各界の方々に好評を博している。
(熱産業新聞 1997年5月25日掲載)
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