監修にあたって

 エネルギーは,我々の文明と深く結びついてきたが,その影響が地球規模で環境を破壊するまでに至って,今や大きな路線変更を迫られている。人類の文明を発達させるにあたって,英知を生かし自然との調和をはかりながら地球規模でエネルギー問題を解決していかなければならない。そして,環境調和型新エネルギーシステムの構築という全く今までに経験したことの無い新しい概念を導入しなければならないのである。
 環境調和型という観点から,近年最も注目されているエネルギーデバイスが「キャパシタ」である。「出力密度が高い」,「応答性がよい」,「安全性が高い」という言葉に特徴づけられるようにキャパシタは,燃料電池や二次電池には無い大きな特徴をもっている。キャパシタの分野は,そのような理由から盛んに研究開発が行われ,近年益々高容量化している。また,蓄電メカニズムを考えてもレドックスキャパシタ,シュードキャパシタ,非対称型キャパシタなどの新しい概念のデバイスが提案されるなど,二次電池との差はほとんど無くなってきている。このような状況の中,学術的総称として,「電気化学キャパシタ」という新しいターミノロジーが生まれている。「電気二重層キャパシタ」と「レドックスキャパシタ」を含めたものである。また,新型のキャパシタは通称,「スーパーキャパシタ」あるいは「ウルトラキャパシタ」という言葉で呼ばれその定義は曖昧になってきている。
 本小辞典は,このような時代的背景のもと,ますます広がり,年々多くなるこの分野の用語をできるだけ整理し,やさしく解説した初の用語集である。NTSが出版した翻訳本「B. E. Conway著:電気化学キャパシタ−基礎・材料・応用」の全ての章の内容を網羅し,そこに出てくる専門用語を整理し解説を加えた。監修にあたっては,この分野の世界的な権威で,育ての親ともいえる,西野 敦氏(元松下電器中央研究所長),森本 剛氏(元旭硝子フェロー)に御協力をお願いし,総合的かつ専門的な立場から入念な検討をして頂いた。関連した用語はできるだけ多くを網羅し,それらをカテゴリー別に分ける作業には相当の時間をかけた。また,多くの図を取り入れた分かりやすい解説の作成を目指し,何回ものクロスチェックを行った。遺漏重複等の除去など地道なおよそ1年の長きにわたる編集活動をへて,今日発刊するに至った。担当していただいたのは,石川正司氏(関西大学),宇恵 誠氏・武田政幸氏(三菱化学),岡島敬一氏(静岡大学),白石壮志氏(群馬大学),高須芳雄氏・杉本 渉氏(信州大学),玉光賢次氏・末松俊造氏(日本ケミコン),西野 敦氏(西野技術士事務所),森田昌行(山口大学),森本 剛(森本技術士事務所),直井勝彦(東京農工大学)の計13名で行った。前回の「電気化学キャパシタ」の翻訳を精力的に担当していただいた専門家の方々と岡島敬一氏,玉光賢次氏にも加わっていただきお忙しい中,綿密な作業をお願いした。また,何回もの原稿の校正を快く引き受けてくれた東京農工大学直井研究室の大学院生の方々(末松氏(現日本ケミコン),町田氏,荻原氏,竹之内氏,五十嵐氏,長野氏,加藤氏,平木氏,古内氏)には多くの作業に対する御協力をいただいた。
 時代が変わり,新しい言葉が生まれるとともに,従来,電池とかキャパシタとか呼ばれていたエネルギーデバイスそのもの概念が統一され, 大きく変わろうとしている。そう言った激動の時代にあり,曖昧模糊としたこの分野の専門用語を少しでも知っていただくのに本書がお役に立てれば幸いである。最後に,本書の発刊および編集に当たっては,NTS吉田社長,臼井氏,細田氏には,大変熱心に対応していただいた。この場をおかりし関係各位に心よりお礼申し上げる。
2004年1月  監修代表 直井 勝彦
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