キャパシタは工業的に電子部品として、また蓄電デバイスとして、世界中で広く使用されている重要なデバイスである。わが国のキャパシタ生産額の世界シェアは断然一位であるにもかかわらず、その技術分野が電気工学と化学にわたるためか、あるいはキャパシタの種類や応用分野が多岐にわたるためか、これまで総合的な優れたテキストブックはきわめて少なかった。いまここに、多数の方々のご協力を得て、世界で初めてのこの“キャパシタ便覧”を出版するに至ったことは大変に嬉しく、心から喜ぶとともに、ご関係いただいた方々に深く感謝している。
 キャパシタは、二つの電子伝導性の板を空気やほか誘電体を挟んで向き合わせた構造を基本とし、古くから世界的にコンデンサとよばれていた。またわが国では,蓄電器ともいわれてきたが、最近ではキャパシタという用語が国際的にも用いられるようになってきているので、本書では“キャパシタ”という用語を主として用いることにした。もちろんコンデンサという用語は、高校生が物理の教科書で初めて出会うものであり、電気工学の分野では広く用いられており、産業の統計にも使用されているが、内容は同じものである。
 キャパシタの起源は、1745年にE.G.von Kleistが作製したライデン瓶にあるといわれており、その後、19世紀中頃にマイカキャパシタやペーパーキャパシタ(紙キャパシタ)が発明され、19世紀の後半から20世紀初頭にかけて、電解キャパシタやセラミックキャパシタが発明された。広く使われるようになったのは1920年代からで、はじめは通信用や電力用のデバイスとして使用された。その後、1950年代以降、エレクトロニクス産業の進展とともに、ラジオ、テレビ、PC、携帯電話などが普及し、それらのキャパシタは必須の部品として用いられるようになった。
 これらキャパシタの機能はいくつかに分かれており、電荷の蓄積、高周波電流を通すフィルタ作用や直流阻子、共振回路用、位相調整用など多様である。そして種類もアルミニウム電解キャパシタ、タンタル電解キャパシタ、セラミックキャパシタ、フィルムキャパシタ、電気二重層キャパシタ、トリマキャパシタ、マイカキャパシタ、ガラスキャパシタなど多種にわたっている。その静電容量も、セラミックキャパシタの10−13Fから電気二重層キャパシタの104 F程度までの広い範囲にあり、用途に応じて種々のキャパシタが選ばれ、使用されている。
 このような情況のもと、本書はキャパシタについての基礎から応用、今後の展望までを述べるとともに、多くの資料を包括的に集めた。本書がキャパシタの研究、製造に従事されている技術者、研究者はもとより、広い範囲にわたって関連する材料関係や、キャパシタを利用する技術者・研究者、電気工学や化学の分野でキャパシタ関連の仕事をされている方々のお役に立つことを期待している。また、本書の出版が、キャパシタ技術とそれに関連する産業の発展の一助になることを願っている。
2008年師走
編集代表 松田 好リ、逢坂 哲彌、佐藤 祐一
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