本書は、ライフライン技術の総合化を図るとともに、今後の都市ライフライン施設の技術開発と制度整備の方向性を示したものである。ライフラインシステムに関する技術開発と知見の集積は、これまで、上水道、下水道、都市ガス、電力、情報通信およびそれらを収納する共同溝等において個別に行われ、技術指針などもそれぞれ独立した分野で策定されてきた。しかしながら、設計・施工、維持・管理、防災対策、環境対策等の課題に関しては、ライフライン間で多くの部分が共通している。また、災害発生時において、一つのライフラインシステムの機能損失が他のシステムの機能に重大な影響を与え、かつ災害後の復旧工事がライフライン間で輻輳して都市機能の復旧が遅滞するなどの事態も発生している。
 本ハンドブックでは、これらライフラインシステム間の共通事項を抽出して、できるかぎり横断的に記述することとした。このことにより、特定のライフライン事業に携わる技術者と関係者が他のライフライン事業での技術・知見を参考にし、これを実務に活用することが可能になると考えている。
 わが国の人口は21世紀半ばまでに約9000万人にまで減少するとの予測もあり、今後、少子高齢化、核家族化が一段と進行するものと考えられる。また、大都市圏では、経済・政治の集中による過密化の進行とともに、洪水や地盤災害に対して脆弱な地域での居住の拡大や都市住民の共助意識の低下によって、自然災害に対する危険性がますます増大している。一方、地球温暖化による気候変動は、異常降雨や渇水および巨大台風の発生等のハザードを増大させている。これらの傾向は本世紀中さらに顕著になってくるものと考えられる。さらに、わが国では東海地震などの巨大海溝型地震や首都直下の地震の発生が逼迫しているとされている。
 自然環境と社会環境の悪化および災害多発の状況下において、安全で安心な社会を構築し、市民の生活を護るために、上水道、下水道、都市ガス、電力、情報通信等のライフラインシステムの機能確保と信頼性の向上が求められている。しかしながら、高度成長期に集中的に建設されたわが国のライフライン施設は、今後老朽化の進行によって防災性が著しく低下することも予想され、適切な維持管理と防災対策の実施は喫緊の課題となっている。本ハンドブックが、ライフライン事業に従事する技術者と関係者に広く活用され、快適で安全な都市空間建設のための座右の書となることを念願している。
(本書「序」より一部抜粋)
社団法人土木学会 出版委員会『都市ライフラインハンドブック』編集小委員会 編集委員長 濱田政則
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