リチウムイオン電池&全固体電池製造技術
 〜微粒子&スラリー調整および評価を中心に〜
= 刊行にあたって =

 リチウムイオン電池の利用分野は、スマートフォンやタブレット端末などの携帯機器用電源から、近年では用途が多様化し、特に電気自動車やプラグインハイブリッド自動車などの車載用電源へと利用分野を拡大させている。 2018年におけるリチウムイオン電池の世界市場は、携帯機器用途が約 1.1兆円(約40GWh)、電気自動車等用途が約 1.6兆円(約60GWh)と見込まれており、今後もさらなる市場の拡大が期待されている。なかでも、車載用途では、排ガスや二酸化炭素の削減の環境規制に対応するために世界中で電気自動車の商品化が活発 に進められることから、 2025年頃には 200〜250GWh となり、3兆円をえる巨大な基盤産業に成長すると予測されている。
 この背景には、自動車を取り巻く世界情勢が各国の厳しい環境規制に対応するために、これまでガソリン自動車を中心とする市場からクリーン自動車に移行をせざるを得なくなってきたことが挙げられる。近年の電池技術の目覚ましい進歩により、自動車の駆動システムは、「エンジン」から、「モーター + 電池」へと確実に移行しつつあるが、本格的な電気自動車の普及はこれからである。
 リチウムイオン電池は、正極、負極、セパレータ、電解液などによって構成されている。この電池は、正極と負極の材料によって電位等が異なり、また多様な電解液とセパレータが存在する。電極のみに着眼しても、活物質、バインダ、導電助剤、集電体など組み合わせは膨大な数で、また、各々に適した電極製造技術がある。活物質と電極の製造プロセスは、粉砕、分球、造粒、焼成、表面修飾、混合、流体輸送、塗工、乾燥、調圧などの多様な粉体技術の集合体であり、これらの粉体特性によって電池性能が大きく変動する。このように、リチウムイオン電池は、電池設計の自由度が大きく、今後 も材料と電池特性を把握して、製造プロセスの最適化と用途に応じた電池の使い分けが重要になってくる。
 電池は電気容量が大きくなるほど、熱暴走を起こすリスクが高まり、また使用する電流値が大きくなるほど発熱する傾向にある。特に自動車用の電池では、電池の安全性確保の未熟さがクリーン自動車の本格的な普及を遅らせることに繋がる。このため、電池の高性能化と低コスト化だけでなく、安全性や信頼性を確保しようとする意識が、日本や韓国、中国、台湾といったアジア圏だけでなく、米国や欧州でも加わって高まっている。
 電池の高性能化と高い安全性の両立には、電池技術、材料技術、粉体技術などが厳格に混成連携する必要があり、多面的に考える必要がある。本書が、電池関連産業の発展の一助となれば望外の幸である。
ATTACCATO 合同会社 代表  向井 孝志
リチウムイオン電池&全固体電池製造技術 
〜微粒子&スラリー調整および評価を中心に〜
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