触媒からみる二酸化炭素削減対策2020 書籍+CDセット 〜動き始めた二酸化炭素利用〜
= 刊行にあたって =

 地球温暖化は我々が予測しているよりも急速に進みつつある。2018年韓国の仁川で開催された国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の総会では世界の平均気温は産業革命前に比べて2030年代には1.5℃上昇に達してしまう恐れがあることが指摘された。2015年のCOP21(パリ協定)では、世界のほとんどの国が集まり、すべての締約国は、地球の温度上昇を産業革命前から2℃上昇より下方に抑え(2℃目標)、さらに1.5℃上昇まで抑えるよう努力することに合意し、日本は、CO2の排出量を2030年には2013年比26.0%減にする中期目標を掲げ、さらに日本を含む世界の主要排出国は、長期目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すことに合意している。

 しかし、これでは温暖化を抑制できない。2050年には、温暖化排出ガスをほとんどゼロにしなければならない。欧州は既に2050年ゼロの目標を打ち出している。2019年ドイツや英国では再生可能エネルギーの割合が化石資源エネルギーを越えた。日本は欧州に比べ温暖化対策が大きく遅れを取っているように思える。石炭火力発電から排出される二酸化炭素を削減するのに再生可能エネルギーの電力や水素を用いるのはナンセンスである。一時期騒がれていたバイオマス利用も資源量に限りがあることと自然破壊につながり、最終的にCO2を排出してしまうことが問題となっている。CCSは、地質学的に日本での実施は困難である。海外でもCCSによるCO2削減は問題視されつつある。EORも石油増産の意味はあるが生産される石油はCO2に変換されるので抜本的なCO2削減には繋がらない。

 このような状況の中で実際的で最も可能な解決策は、まずCO2の排出量の少ないメタンを利用することである。メタンは米国のシェールガスだけでなく世界的に埋蔵されている。そして、次には、再生可能エネルギーの社会を目指さし、実現することである。
 欧州はCO2と再エネ水素からメタンを合成しメタングリッドを用いてメタン社会を実現しようとしている。また、空気中のCO2と再生可能エネルギーからの水素で液体燃料(e-fuel)を製造する研究を始めている。  中国は石炭から天然ガスそして再生可能エネルギーによりメタノールを製造し将来のメタノール社会の実現を進めているようである。水素社会は理想であるが水素は輸送や移動にコストが掛かりすぎる。廃プラスチックのケミカルリサイクルもCO2削減にとって重要な技術である。

 我が国は総花的な技術を展開するのではなく2030年から2050年につながる抜本的な技術を絞り込む時期に入っている。日本は世界で最も再生可能エネルギーを必要としている国でエネルギーの国産化を最も切望している国なはずである。現状の工業触媒技術の観点から実現可能な最新の技術開発動向をまとめた。
室井城
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〜動き始めた二酸化炭素利用〜
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