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はじめに

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酸化チタンとは不思議な化合物である。日本人は1人1年間に2kgも使っている一般的材料であり,特に白色塗料の主原料である。しかし本書のテーマである色素増感型太陽電池と光触媒における主原料もこの酸化チタンである。どの材料にもいろいろな分野に応用できるそれぞれの特性をもっているが,酸化チタンも特異な特性をもつ材料ということができる。
光触媒では光励起された時に生じる強い酸化力と,超親水性という二つの異なる特異な特性を酸化チタンがもっていることが利用されている。他の無機系酸化物にない特性である。しかもごく最近になり,紫外光にしか応答できなかった酸化チタン光触媒が,より利用範囲が広い可視光にも感じるようになり,ホットな話題となっている。これが,本書の主テーマの一つの可視光応答型光触媒である。酸化チタンの酸素のところを少しだけ窒素で置き換えると可視光応答性を示すようになることがわかったことが主な成果である。何でもわかってしまうと,簡単な事実によることで驚くことが多いが,この例でも同じことが言える。
色素増感型太陽電池の基本的考え方も,写真における分光増感反応の光電気化学的研究として35年以上前から調べられていたことである。しかし,1991年Gr tzel教授によって多孔性酸化チタンを用いると効率の高い色素太陽電池が組めるとして発表され,世界的に注目されるようになった研究である。ここでも酸化チタンが主役の一人を演じているから不思議である。この太陽電池も溶液系から固体系へと,研究の流れがシフトしつつあり,実用化へ向けての試みがなされている。
本書は以上のように酸化チタンを使いながら,人類にとって現在最も重要なテーマである環境とエネルギーに関する技術の可視光応答型光触媒と色素増感型太陽電池についての最新の技術がまとめられている。ぜひ広く各方面から利用していただきたいものである。 |
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東京大学 藤嶋 昭 |
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