刊行にあたって

 石油辞典を刊行してから16年余りが経過した。地球温暖化問題が小学生でも知るところとなり,京都議定書の発効など,化石資源としての石油をとりまく情勢は大きく変化した。この間,石油・石油化学製品の生み出す環境問題に対してさまざまな対応策が講じられてきた。ガソリンの低ベンゼン化,ガソリン・軽油の超低硫黄化が進む一方で,燃料電池の開発動向とディーゼル排ガスの問題という光と陰がマスコミを賑わしている。また,1996年の特定石油製品輸入暫定措置法の廃止や電力など他のエネルギー分野における規制緩和はエネルギー需給システムを大きく変化させようとしている。石油公団の独立行政法人化などエネルギーの安定供給の体制も再構築されつつある。
 石油辞典は幸い好評を得て石油関連用語の正しい理解の普及に貢献してきた。石油学会では上記のような情勢の大きな変化に対応し,石油辞典を全く新しいものとして刊行するための委員会を発足させた。旧版の石油辞典については,刊行後の情勢変化が大きいため,新しい用語の欠落が見られると同時に,定義が変わった用語や死語と化した用語も多く,大きく改訂する必要性が認められた。しかし一方で,近年のインターネットの急速な発展により情報検索手段が大きく変化したところから,このような時代に刊行物として出版することに対する疑問も出され,大いに議論がなされた。
 もとより石油学会は石油に関する科学と技術の振興と発展をはかるとともに,石油の正しい知識の普及に努めることをその活動の目的としている。インターネットにあふれる情報とは異なり,石油の上流部門から下流部門に至るさまざまな分野の第一人者が集う石油学会の叡智を結集することによって新しい石油辞典を刊行することは,石油についての正しい知識を広めるという石油学会の使命にもかなうものである。石油関連科学・技術・産業は広範な分野にわたっており,新しい用語や用語の正確な定義を簡便に知るツールとしての辞典の意味は大きいが,それとともに,石油に直接携わってはいない一般の読者をも想定し,分かりやすく簡潔でかつ具体的な記述に努めた。環境,新エネルギー,新プロセス,安全などに関連した用語をはじめ,新しい用語が多いところから,全体の採録語数を大幅に増加させ,完璧を期した。
 現代社会に広く深くかかわっている石油についての正しい理解のために本書が役立つものと信じている。最後に,本書の企画から刊行に至るまでご尽力いただいた編集委員ならびに執筆者諸氏に深甚の謝意を表するとともに,石油学会事務局,丸善株式会社出版事業部のご協力に心から感謝申し上げる。
2005年初秋 石油辞典編集委員会 委員長 辰巳 敬
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