翻訳にあたって
“持続可能な社会に貢献する化学技術”を想う読者諸氏へ
 原著は、化学技術に関するもっとも包括的な百科事典として定評のあるカーク・オスマーの『Encyclopedia of Chemical Technology (ECT)』の第5版から、環境に関連の深い73の重要項目を選んで、合本として2007年に刊行されたものである。
 翻訳の提案を受けた時、カーク・オスマーの百科事典が世界的に定評があるものとはいえ、二つの点で懸念を感じた。一つは、確立された化学技術に関する記述の充実ぶりは知っていたが、“化学技術と環境”という未来を見通すべき課題を考えた場合、適切な内容になっているのだろうかという点。もう一つは、執筆後、時間が経過した項目もあるので、それらの内容が時代遅れになっていないだろうかという点であった。 
 しかし、これらの懸念は、翻訳が進むにつれ、ほぼ解消された。最先端の話題を網羅しているとはいえないとしても、選ばれた項目について書かれた内容は非常に充実していて、示唆に富むものであり、最先端の課題を考えるうえで、十分に発展的な活用できると信じることができた。もちろん、大部分の先端技術はカバーされている。
 その他、執筆者が欧米中心に選ばれているため、日本の事情と異なる場合もある。両者が対比的にわかるという利点はあるのだが、そのために追加的な記述が必要と判断した場合は、訳者または編者が追補または訳注を加えた。原書執筆時点以後に注目すべき発展のある場合についても、可能な限り同様の対応をした。
 ということで、“持続可能な社会に貢献する化学技術”に関心をもたれる読者にとって、本書が間違いなく予想を超えるほどに有用なものになると信じるに至った。関心のある項目を読んでいただけばおそらくこのことを実感していただけるものと思う。また、空いた時間にぱらぱらと覗いていただいても興味深い知見が得られるに違いない。
(中略)
 なお、訳書の題名は、本書の個別項目を貫通する上位概念であり、かつ、現在、わが国で推進されているグリーン・サステイナブルケミストリー(GSC)がふさわしいとも考えたのだが、原著の題名を尊重し、これは副題とした。

平成21年初夏  訳者、編者を代表して
御園生 誠
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