発刊によせて
 「超分子化学」の存在が化学の分野でそれなりの居場所を確保したのは,1970 年代以降であろう。分子と分子の組み合わせが作り出す新しい「分子」は,それまで化学のさまざまな分野で研究が続けられていた。それらの成果が超分子化学というキーワードで結び付けられると,個々の分野の中で芽を吹いていた発想が解き放たれ,互いに刺激し合い,それらの多くをカバーする独自の新領域が成長し始めたのである。
 30 年後の今,超分子化学は大きく成長した。それは本書の目次を一見するだけで明らかである。わが国で最も活発な研究活動を続けている150 名を超える著者が,それぞれの得意分野について研究開発の現状を紹介しこれからを議論している。壮観という外はない。本書を通して,化学の一分野として始まったこの領域が周辺領域ともつながり,科学としても技術としても大きなポテンシャルをもつことが明らかとなった。超分子サイエンスの基礎から始まり,分子プログラミング,ナノマテリアル,バイオ超分子,材料への展開などの豊富な内容を含む本書は,読者に超分子サイエンスの魅力と可能性を余すところなく伝えてくれるだろう。同時に,わが国のこの分野の研究活動が世界のトップランナーであることも教えてくれる。
 環境とエネルギーを軸として,世界の産業構造が変革期を迎えたとの感触がある。超分子サイエンスがそこでどのような役割を果たすことになるのか,それも読み解きたいことのひとつである。

監修 国武 豊喜
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