発刊のことば

 最近、廃棄物はますます大きな社会問題となり連日、新聞、雑誌、テレビニュースを賑わしている。我が国では1970年に「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下「廃棄物処理法」と略称する。)が制定され廃棄物処理の基本理念が打ち出された。我が国の国土は狭く、最終処分場の用地確保が極めて困難な状況から廃棄物の処理は排出前に極力、資源化、再利用を図ったのち焼却等中間処理により減容化、無害化、安定化を行い、残渣を埋立処分することを原則としてきた。このため世界に先駆けて焼却処理を廃棄物処理の中心としてきた。
 また残渣等の埋立処分は、好気的埋立により廃棄物の分解を促進し、埋立地からの周辺環境を保全し、埋立地の早期安定、用地回収を行う日本独自の「準好気性埋立」が用いられた。
 一方、国土事情が異なる欧米においては廃棄物処理の中心は埋立処分であり、埋立地を生物学的反応槽として嫌気的埋立により生成するメタンガスを回収し、これを発電等に有効利用する方式が採られてきた。これらの異なる処理方針は長い間、様々な議論を行いながら独自に発展してきた。
 しかしローマクラブの提言やブラジルのリオデジャネイロで開催されたアジェンダ21のリオ宣言等から地球資源や環境の保全が世界的問題として採り上げられる様になり、特に地球の温暖化に寄与率の高いメタンガスについては、全排出量の約30%が埋立処分によるという報告もあり、廃棄物処理の在り方も大きな転機を迎えている。このような背景下、1993年6月にドイツで制定された住居地区廃棄物処理技術基準(TA Siedlungsabfall)は、これまでの欧米の廃棄物処理方針を180度転換する基準として、かつ技術的に最も厳しい基準として世界的注目を集めた。その概要は、熟灼減量5%以下のものは埋立禁止(産業廃棄物は10%以下)すなわち焼却やコンポスト化により埋立廃棄物中の有機物を極力少なくし埋立を回避するというもので、ある意味では日本型処理システムに近づいたともいえる。我が国においても1997年「廃棄物処理法」が改正されこれから各種技術基準が整備されようとしている。丁度その時期と符合するようにドイツの廃棄物処理基準「TA Abfall」と「TA Siendlungsabfall」の日本語版を監訳した。
 監訳にあたっては極力原文に忠実に訳したが分かり易くするため一部、用語を日本向けに変えたり(例「特別監視を必要とする廃棄物」=「特別廃棄物」、「住居地区廃棄物」=「一般廃棄物」)具体的イメージが湧くように写真を追加した。国土事情が異なる国の技術や制度を単に比較することは、ある面で無意味なことであるが、背景を理解して比較することは意義深いことである。このことを踏まえ、本書を廃棄物の制度や技術を勉強する方々に活用して頂ければ幸いである。
1998年11月  花嶋正孝
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