まえがき

 近年、ヒートアイランド対策や都市再生事業の一環として、広範な空間で都市緑化事業が展開されている。その事業を手がけるのは造園家だけではない。隣接分野である建築家や園芸家もかかわる。建築家は、建築計画の一環として、その外交部の緑化計画にも当然、関与する。また、園芸家なども自らのビジネスチャンスの拡大をねらい、家庭園芸や趣味の園芸の領域から都市緑化の分野へと参入してくる。
 筆者はこれまで、さまざまな機会を通じて建築家や園芸家と一緒に仕事をしてきた。また、彼らの都市緑化の場面での言動や実践ぶりを見たり聞いたりもしてきた。そこで常に感じていたのは、建築家や園芸家は都市緑化の神髄をわかっていないということである。このまま彼らに都市緑化の仕事の一部を委ねていたら、都市緑化事業が偏向してしまうという危機感を感じていた。
「造園命」を看板に掲げている筆者は、都市緑化事業は本来、造園家の専売特許と考えている。本心は、建築家や園芸家の口出しや手出しは無用と思っている。しかしながら実際には、先に述べたように、さまざまな場面で彼らが参加してきている。
 常々、建築家には「緑化に使うデザイン素材である植物は生き物であり生長する素材である。その種類も多く、性質も個々すべて異なる。マニュアル通りには設計できない」と、園芸家には「都市緑化は一茎一花を丁寧に栽培するわけでもなく、また鉢の中の小宇宙をつくるものでもない。大海を知らずして仕事はできない」と言ってきた。さらに双方の関係者に「都市という植物の生育にとっては厳しい環境条件下にある空間を緑化するためには、相応の知恵と技術を駆使しなければならない。また、優れたデザインセンスも必要である」と説いている。
 本書は、建築家、園芸家に、都市緑化の勘所、あるいは都市緑化の事業に関係するためには最低限このような視点や知識を知っておいてほしいと思っている事項について、改めて書き下ろしたものである。文章だけで表現し尽くせない部分については、写真を示し理解を深めてもらうことをねらった。
 都市緑化にチャレンジする建築家、園芸家にはぜひ読んでほしい。都市緑化の本質を知ってほしい。グリーンアドバイザー、コンテナガーデニングマスター、ハンギングバスケットマスター、スカイフロントコーディネーターなどの有資格者が、都市緑化という舞台を活躍の場として真に望むのであれば、本書に書かれている内容を十分、理解されてから事にあたってほしい。また、造園技術者や造園学徒にも、都市緑化事業の推進において主役を担うための知恵袋として活用してほしいと願う。
 なお、建築家や園芸家から強く求められている都市緑化の設計に必要なデータ集などについては、本書に盛り込むことも当初は考えたが、かなり膨大な量となるため、別途これらを一括してとりまとめた本を作りたいと考えている。
 本書が、都市緑化の舞台で造園家と建築家、園芸家が同床異夢となるのではなく、共通理解を生み、真のコラボレーションを図るための道案内として役立てば本望である。
 最後に、本書の企画から刊行に至るまで、誠に丁寧なご助力をいただいた潟Gヌ・ティー・エス編集企画部の椙谷さおり氏に深甚の謝意を表する。
二〇〇六年十二月 著者
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