刊行にあたって

「絆」が2011 年の漢字に選ばれた。2011 年3 月11 日の東日本大震災・大津波・原発崩壊……と, 北関東・東北地区の苦難を全日本で支援したいという熱い思いを反映した素晴らしい一字だと思 う。しかし,技術者と社会とのかかわりの側面から見ると,種々問題が露呈した年でもあった。 21 世紀に入り,科学技術はより一層進歩し,ますます高度化,複雑化しており,技術的なことが 原因での不祥事が多くなることは致し方ない面もある。しかし事故に対する対応において,企業 技術者は自己防衛に注力し隠ぺいに走る,大学等の中立研究者は,狭い専門分野からのみの偏っ た分析にとどまる,これでは一般市民は技術不信に陥る。近年,輸送機器ハブの破損事故,ジェッ トコースター車軸破損事故……等社会に多大の被害を与えた強度・信頼性がらみのトラブルは多 い。筆者もこれらの事故に関わらせていただいたが,上記障害で,最重要の真の原因・最適な対 策がゆがめられ,挙句の果ては不公平な司法判断が下される危険性を大いに感じた。この時だか らこそ技術者は,社会からより一層の倫理・モラル・責任が求められている。この背景のもと本 書「破壊力学大系−壊れない製品設計へ向けて−」の企画が進められた。従って本書の構成も,ま ず技術者倫理・企業倫理から俯瞰できるよう第1 編「事故例」,次にそれらの対策に基づいての第 2 編「強度設計技術」,さらにはこれらを支える汎用基礎技術として第3 編「材料力学・破壊力学」, 第4 編「各種材料」とさせていただいた。通常の教科書とは順序が逆と思われるかもしれないが, 現在企業技術者として第一線で活躍しておられる方々には最も適した構成と信じている。ものづ くり企業の開発設計・生産技術・品質保証・保全すべての現場技術者,企業技術の実態を知る必 要のある大学研究者・学生,事故に対して公正な評価の責任にある司法界の方々に是非読んでい ただきたい。
最後に,本書発刊にあたり,ここに至る経過と関係者の方々へのお礼を述べ,我々編集に携わっ た立場からの思いを記させていただく。まず,御執筆いただいた先生方,技術者の中には,東日 本大震災で研究室,実験室が崩壊された中で,あるいは,バンコク大浸水で関連工場閉鎖の受難 の中でも,執筆・校閲・校正を遂行頂いたその責任感に対して感謝申しあげる。また,企画・出 版頂いた株式会社エヌ・ティー・エスの吉田社長,森顧問におかれては,まさにこの厳しい時期 だからこそ日本のものづくり企業復興に協力したいとの熱い思いをいただいた。これら志は一に しながらも企画・執筆・編集・印刷個々の方々のこだわりから激しい議論もあったが,その調整 の中心で大車輪のご活躍をされたオフィスMA の蘆田女史の奮闘に感謝する。 ご購読いただく方々には,我々のこの熱い思いを,本書の行間の合い間合い間に感じていただ ければ幸甚である。
Make Japanese Revival Success with Young Engineer’s Sense of Responsibility!
 平成24 年2 月吉日
 編集代表 服部 敏雄(岐阜大学/「発刊にあたって」より)
Strength Design Handbook for Failure Prevention of Products 
破壊力学大系 ―壊れない製品設計へ向けて―
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