展示学事典
刊行にあたって

―展示とは意図を伝えること



 展示という言葉は,今日,日常的に使われ「並べて見せる」という意味で用いられています.人に見せるため整えて並べる行為が展示ですが,なぜ見せるのか,何を見せるのか,そこには見せる行為に付加する思いが生じます.ものを見せる行為は同時に,ある思いを伝えることです.展示は情報を伝えるコミュニケーションの役割を担っているのです.つまり「展示とは意図を伝えること」なのです.

 展示や展示学のニーズの広がりを実感したのは,博物館法で規定されている大学における学芸員養成課程の見直しがあり,修得すべき科目に,展示という語が表記された「博物館展示論」(2単位)が加わり2012年4月より実施されたことです.

 日本展示学会は,1980年代に全国各地で博物館・美術館をはじめとする展示施設が次々に設立される中で,展示に対する考え方が従来の単に「陳列」という概念から大きく変化し,展示自体が「総合的なコミュニケーション・メディア」であるという視点に立った研究の必要性から,初代会長・梅棹忠夫の呼びかけにより,1982 年に設立されました.その設立35周年にあたる2017年に,学会の事業として本事典に取り組むことにしました.

 私たちは,この年月において蓄積された個人の経験・見識を現段階で一度収集し,この魅力を社会に広く訴えたいと意欲的に考え,議論を繰り返してきました.結果,本事典において重視したことは,展示にまつわる事柄を網羅することではありませんでした.展示の魅力を伝えるべく,読者(初学者・実務初級者)が広く関心を抱きそうな章立て・項目案の構成を旨としました.そして,多種多様なテーマを見開き形式(192頁)でまとめ,読み切り型の文章に具体的な図や表,写真を盛り込みました.

 本事典では,それらを日本展示学会の会員・非会員問わず,国内第一線の研究者・展示実践者に執筆を依頼しました.唯一無二のユニークな“読む展示学事典”をつくることができたと思います.執筆者や図版・写真の提供元をはじめ,展示に関わるすべての方々に感謝申し上げます.

2018年11月
編集委員長 木村 浩
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