森林学の百科事典
刊行の辞より (一部抜粋)

 森林をめぐる近年の大きな動向としては、地球規模での気候変動があります。…(中略)…熱帯をはじめ森林減少が進む地域では、森林の破壊や劣化を防ぎ、森林からの二酸化炭素の放出を防ぐ経済的、政策的仕組みの推進が国際的に模索されています。同時に、生物多様性をはじめとする生態系機能の保全を重要視する「持続可能な森林管理」の潮流も強い流れとなってきました。

 21世紀に入り、森林研究は急速に深化と拡大を遂げています。森林の生物多様性研究は、さまざまな生物の間の複雑なネットワークを明らかにし、複雑な森林生態系が維持されるメカニズムを明らかにしつつあります。樹木や森林生物の生理や生態、遺伝子の解析から個体のふるまいにまでつながるメカニズムが解析されています。森林の気象や防災、生物の分布や動態などさまざまな分野で、大規模で、高度なシミュレーションが可能になってきました。東日本大震災後に課題となった海岸林の再生や森林の放射能汚染のモニタリングなど、新たな取り組みも生まれています。国内の林業の世界では、戦後植栽した人工林の成長にともない、林業の成長産業化がうたわれ、新たなICT技術やAI技術の活用も含め、森林研究の貢献が求められています。

 今回の『森林学の百科事典』の刊行にあたっては、日本森林学会の第一線の研究者の協力を得て、編集と執筆にあたってきました。森林学が現在対象とする分野の広がりと深さを反映するため、学会員に限らず周辺分野の研究者や実務者の方々にも一部執筆をお願いしています。…(中略)…森林学の現状を反映し、森林に関心を持たれる初学者や市民の皆さん、森林・林業に関わる実務者、他分野を参照したい研究者の皆さんに役立つ事典となったと自負しています。ぜひ、ご活用いただければ幸いです。



2020年11月20日
編集委員長 田中浩
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