住まいの百科事典
   

 この『住まいの百科事典』は、生活の基盤となる住まいについてハード面・ソフト面の双方にわたる幅広い領域を対象として、日本家政学会がまとめた、家政学の一部門である住居学を主軸に、建築学、都市計画学、社会学、経済学、心理学、文化人類学などの隣接・近接する分野を包含する学際的な事典となっています。そして、住まいを取り巻く各分野における研究の「全体像」と「展望」を広く社会へ伝えることを目的としています。

 この事典の特色として、物事を網羅的・俯瞰的に物事を解説するのではなく、特に重要であると考える事柄や、読者の関心が高いと思われるテーマを選び出して構成しました。また、事柄について調べるという用途のみならず、読み物としても読みごたえのあるものを目指しました。住居学に加え隣接・近接する各分野の研究も取り入れ、解説することで、読者が周辺の知識も一緒に学ぶことができ、学術的な興味がさらに広がっていくことを期待しています。各テーマについて、見開き2ページで説明を完結する事典として、編集しています。住まいについて、生活者の視点から考察・分析して、より暮らしやすい住居・居住環境を追求しながら、社会現象を含めた多様な切り口から研究している点が、例えば、隣接する建築学の視点でまとめられている類書とは、大きく異なると考えています。

 この視点は、家政学が求めてきた学問のあり方にみることができます。家政学は、人々の幸せを追求する総合の科学であり、人間生活を豊かにする実践的で学際的な奥の深い学問です。現実の生活に即して、そこで暮らす人々について科学的なデータを採取し、事実を確認すると共に、問題を分析し、日常の生活に着目して対策を立てるという、きめ細やかさが求められています。

 現在の住まいに関わる問題は多岐にわたっています。2011年3月11日の東日本大震災では、多くの尊い人命が失われ、また、多数の人々が住まいやふるさとを失う経験をしました。近年、台風や豪雨災害により、各地方で住まいを失い、避難生活を余儀なくされる状況が見られます。自然災害ばかりでなく、経済的な困窮により、最低限の住まいですら確保することも難しい状況も生まれています。閉ざされた住まいの中で、残念ながら孤独死や児童虐待などの問題も生じています。住まいと地域とのかかわりの重要性も問われています。住まいの問題は、地球規模の環境問題とも、安全や公衆衛生にも大きなかかわりがあり、この事典で取り上げる領域は多岐にわたり、掲載するテーマ数は303を数えます。(中略)

 この事典はさまざまな使い方があります。例えば、住居学一般を学ぶ大学の授業では、15章をそのまま15回のタイトルとして、教員が関心のある伝えたいテーマを取り出して講義を組み立てることも可能です。また、中高の家庭科授業の参考図書としても有効です。さらに、一般市民から専門家まで利用いただけるように、基本概念・重要概念が盛り込まれ、読み通しやすく、加えて、現代的トピックスで構成されていますので、多くの方に活用いただけると考えています。

 2021年3月
編集委員長 定行まり子
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