日本語版発刊のことば

 現在,地球環境はよくなってきているのであろうか?悪くなってきているのであろうか?かっての重金属,PCB,BHCのような有害物質による汚染は,先進国では著しく改善されてきているが,アジア,アフリカ,南アメリカなどの開発途上国においては,水銀や農薬汚染が大きな問題となっており,地球全体からみれば決してよくなってきているとはいえない。 特に,最近の環境汚染は,トリクロロエチレンやテトラクロロエチレン等の発ガン性を有する揮発性有機塩素化合物による土壌・地下水汚染,また船底塗料や漁網塗料で使用されている有機スズによる魚介類や底質の汚染,タンカー事故やバラスト水,廃油による沿岸域の油汚染,さらに工場跡地等におけるカドミウム,水銀等による重金属汚染等の低濃度・広範囲な地球規模の汚染あるいは土壌汚染が世界中で問題となっており,これらの汚染の浄化には従来の物理化学的処理では対応が困難なため,バイオレメディエーション技術の活用が期待されている。
 バイオレメディエーション技術とは,細菌,カビなどの微生物を用いて,有害物質で汚染した環境を修復する技術である。本技術は,経済性に優れ,原位置で浄化が可能であり,かつ汚染物質を無害化できる恒久的な技術であることからその活用が大いに期待されている。我が国ではトリクロロエチレンやテトラクロロエチレンで汚染された土壌・地下水がl,000カ所以上あるが,我が国におけるバイオレメディエーションの適用例は,メタンガスと酸素を地下水に注入し,メタン菌を活性化することによりトリクロロエチレン汚染地下水を浄化した実証試験の1件のみである。しかしながら,欧米においてはすでに多くの汚染現場で実用化されている。米国では,法的に修復を必要とする多くの汚染した土壌,淡水域および海域があり,塩素系有機溶剤による汚染場所は,40万ヶ所あるといわれる。連邦政府の関連汚染土壌の修復に4,500億ドルが,また連邦政府以外の鉱山,工場,地下水等の汚染の修復に1.1兆ドル以上がかかると試算されている。このように多くの汚染現場を持つ米国は,世界で最もバイオレメディエーション技術が進んだ国であり,技術の開発と同時にリスク評価が精力的に行われている。
 このような状況の中で,ジョン・T・クックソンJr.博士が執筆した“BIOREMEDIATIONENGINEERING Design and Application”はバイオレメディエーション技術の基礎となる汚染現場の調査法,微生物の分解特性,生物的反応プロセス,修復装置の設計とデザインさらに演習問題等が大変解かりやすく記述されかつ最新の研究成果も網羅されており,学術的にも貴重な書となっている。また本書は,ジョン・T・クックソンJr.の土木工学,衛生工学,環境工学における30年以上の経験,および10年間にわたる大学での教育経験にもとずいてまとめられたものであり,基礎から応用にいたるまで幅広い内容を含んでいる。地球環境にやさしいバイオレメディエーション技術が,これからますます発展していくことは疑う余地がない。環境浄化に携わる設技師,施工者,規制担当者,研究者および学生にとって,最高の指導書となるであろう。
1997年1月  藤田 正憲/矢木 修身
序文

 本書は,有害物質を分解するために用いられるバイオレメディエーションの設計と操作技術に関する基礎的知識を提供することを目的として作られたものである。またバイオレメディエーションに関心をもっている設計技術者,規制担当官,プロジェクトの責任者および学生を対象に書かれたものである。これらの人たちは,従来の排水処理法,生物処理の設計,水質化学そして微生物学に関するある程度の知識をもっていると考えている。バイオレメディエーションエンジニアリング〜設計と応用〜という表題は,汚染した土壌,底質および地下水のレメディエーションに対し微生物を用いる工学的視点の重要性を強調するためにつけられたものである。
 本書は,私の過去30年間にわたる生物プロセスを用いた工場廃水処理を実施してきた経験や過去8年間のバイオレメディエーションに携わってきた経験にもとづいてまとめられたものである。内容は,10年間の環境工学分野の教授として教えたこと,また環境エンジニアリング商会の長として18歳から実施してきた実務経験にもとづいている。本テキストは,バイオレメディエーションに関する多くの専門家の経験にもとづいた化学的知見を網羅している。最新の設計の方法とそれらの応用を解かりやすくまとめたものである。
 開発中の技術について本を出版することは困難である。バイオレメディエーションは目だたない技術であったが,この5年間で全レメディエーション技術の15%を占めるまでに成長した。しかしながら,この発展は本課題に対する充実したかつ統合的な紹介の必要性を意味している。この種のテキストはバイオレメディエーションの応用のみでなく本技術の理解を深める意味で重要である。一部の人は,生物的プロセスが予測できなくかつ信頼できないものとして受け止めている。この懸念は,不適切な利用および生物反応やプロセス設計に対する基礎的知識の不足から生じている。私のバイオレメディエーションのトレーニングコースを受けた多くの専門家の熱意と要望があってはじめてこの本ができあがったことに感謝する。
ジョン・T・クックソン
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