発刊にあたって

 各種の先天性疾患、癌等の疾患が遺伝子のレベルで明らかになり、その治験が臨床的な診断に積極的に応用されるようになったのは、1980年代に入ってからである。さらに1990年代に入ってからアメリカで始まった人を対象にした遺伝子治療研究が、その後広くヨーロッパ、一部のアジア諸国にも広がり、現在400近いプロトコールで4000人近い患者が遺伝子治療臨床研究の対象となっていることは周知の如くである。現在行なわれている遺伝子治療は、臨床研究という分野に位置づけられている事からも明らかなように、まだ技術的に不完全で、開発すべき点が多い。しかし21世紀には治療の新しいパラダイムとして遺伝子治療が発展・普及することは明らかで、現在はその基礎を固めている時代であると言って良いであろう。 今回エヌ・ティー・エスから発行されることとなった「遺伝子治療開発研究ハンドブック」では、まず先天性疾患、感染症、癌、循環器疾患等における遺伝子異常の病態を紹介、引き続いて遺伝子治療についての概説、遺伝導入技術の紹介、各種生体内細胞への遺伝子の導入、導入された遺伝子の発現の調節、導入の安全性、遺伝子治療プロトコールの作成指針、各種疾患モデル動物を用いた遺伝子治療の実際についての解説などが順次行なわれており、動物実験から臨床的応用にまで実際に役立つ有用なハンドブックになっている。著者の方々は、研究、臨床の第一線にある方々であり、その内容も実地に役に立つものになっていると信じている。わが国の遺伝子治療臨床研究が欧米諸国に比べて著しく出遅れており、このことはわが国の医学・医療の将来にとって憂うべきことと考えているが、この本の出版が今後のわが国における遺伝子治療に関する基礎的研究、さらにその結果の臨床応用を促進する有用な手段の一つになる事を心から願っている。
平成10年12月  編集顧問代表 高久 史麿
Copyright (C) 2003 NTS Inc. All right reserved.