認知行動療法事典
「認知行動療法事典」刊行にあたり
 今や「認知行動療法」は、保健医療分野はもちろんのこと、教育、福祉、司法・犯罪、産業・労働などの多くの実践分野において、すでに心理療法のスタンダードとなるべく大きな広がりをみせています。
(中略)
 認知行動療法は、そもそも人間の行動や認知の基本的なありように関する行動科学的な理解に基づいているため、これまでにも人間の生活や健康に関わるさまざまな問題の解決に役立ってきたことは、認知行動療法が「新たに広がってきた」わけではなく、ある意味、当然のことと言えるのかもしれません。
(中略)
 日本認知・行動療法学会はすでに45年以上、半世紀弱の歴史を重ねています。その間、幾度となく、今回と同様趣旨の学会企画・編としての出版物等の企画案がありましたが、残念ながら実現するに至りませんでした。しかしながら、2018年度の終わりに心理技術職の国家資格である「公認心理師」が初めて輩出され、この公認心理師時代を迎えるにあたり、ますますスタンダードとしての「認知行動療法」が着目されることが容易に予想できます。そこで、初めて学会編を冠した出版物として「認知行動療法事典」の刊行に踏み切ることになりました。
(中略)
 事典の章構成に関しては、まず、「基礎理論・総論」の章に加えて、行動療法・認知行動療法が大切にしてきた基盤である「基礎研究」の章を独立して設けました。そして、「認知行動療法の適用範囲」の章でそれらを概観し、主要な「アセスメント技法」の章、「介入技法」の章をそれぞれ設けました。さらに、公認心理師の主要5分野(保健医療分野、教育分野、福祉分野、司法・犯罪分野、産業・労働分野)を扱った章に加えて、歴史的に行動療法の発展の基盤を培ってきた「発達障害支援と特別支援教育分野の認知行動療法」の章を独立して設けました。また、近年の大きな社会的関心が高まっている深刻な嗜癖の問題を「司法・犯罪・嗜癖分野の認知行動療法」の章の中で扱うこととしました。そして、認知行動療法のエビデンスを支える「認知行動療法の研究法」の章、昨今の認知行動療法の研究と実践を取り巻く「関連法規・倫理」の章を設けました。
 「認知行動療法事典」は、初学者はもとより、認知行動療法やその周辺領域の研究者や実践者にも活用していただけるような内容を意図しております。そのため一項目を見開きページで分かりやすく解説する中項目主義の特性を活かして、単なる用語解説等の辞典とも差別化ができる使い勝手のよい事典を目指しました。
(中略)
 この「認知行動療法事典」の刊行の準備をしている間に、図らずも「平成」から「令和」への改元を迎えることになり、文字通り時代を越えた新しい時代の幕開けの事典になりましたことを大変嬉しく感じております。
2019年(令和元年)5月1日 令和最初の日に
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
認知行動療法事典編集委員会委員長
嶋田 洋徳
 
認知行動療法事典 Copyright (C) 2019 NTS Inc. All right reserved.