まえがき

 2004年6月に政府・IT戦略本部より「e-Japan重点計画-2004」が発表され、世界最先端のIT国家へ向けた「加速化5分野」、「先導的7分野」、「インフラ」に関する具体的な施策が示された。この中で、「インフラ」については4000万以上の加入者が高速インターネットアクセスを利用できるようにするとの新たな目標が提示され、すでにパソコンや携帯電話でインターネットを利用する人口普及率は60%を超えていると言われている。また、2003年12月より三大都市圏で地上波デジタル放送のサービスが開始され、2011年までには全国展開される計画である。このような新たなサービスを今後さらに拡大させるためには、ネットワークインフラのデジタル化・ブロードバンド化が不可欠であり、2004年8月末時点でxDSLは1200万世帯、ケーブルモデムのCATVは270万世帯、さらには光ファイバを利用したFTTHは160万世帯を超えている。
 一方、家庭では大画面のディスプレイや大容量の蓄積メディアが普及しつつあり、数年後にはテラバイト級のデジタル情報がブロードバンドネットワークを介して利用されると予想される。まさにブロードバンド時代の到来である。今後は、ネットワークインフラとブロードバンド端末間のギャップを埋める“毛細血管的なネットワーク”の技術開発と実用化が鍵となる。
 このような状況において、大容量のデジタル情報を低コストで伝送することができるプラスチック光ファイバ(POF)が注目され、POFとその周辺デバイスの開発と実用化、及びネットワーク応用と標準化活動が活発化している。研究・開発では既に10Gbpsを超える超高速伝送が実証され、実用化では車載ネットワークや情報家電インタフェースへとその適用領域を広げている。さらに、大規模のマンションや病院などでもPOFネットワークの導入事例が増加している。
 POFに関連する技術の研究開発と普及・促進については、1994年2月に設立されたPOFコンソーシアムが業界を先導してきたといえるであろう。設立後10年の間に、POFを取り巻く環境も大きく変化し、研究・開発と実用化に加えて、国際標準化や海外の研究機関における活動が進展した。
 このような状況を鑑み、POFに関連する研究開発の最新動向と実用化の現状を整理して関係者に提供し、ブロードバンド時代におけるPOFの役割などについて議論を深めるのは時宜を得た企画であると考えられる。本書の前半では、1章でPOFの基本原理・構造と伝送特性を、2章で実用化されている各種POFの種類と特性を、3章で光トランシーバや光コネクタ・パッシブデバイスなどの周辺デバイスを、4章でPOFケーブルの端面処理や配線・施工技術を記述する。
 後半では、5章でPOFを利用した各種ネットワークの構成と概要を、6章で経済産業省や慶応工学会などを中心とする普及・促進活動を、7章でPOFに関連する国内外の標準化活動の動向を、8章で海外における研究開発活動の概要を述べる。最後に、ブロードバンド社会におけるPOFの役割などについて、今後の展望を述べる。
 本書が、ブロードバンドネットワークの研究開発に従事する大学・企業の研究開発者や、ネットワークの分野に興味のある大学および大学院生、さらには公的機関や企業において今後の技術・事業戦略を企画立案する方々のお役に立てば幸いである。
 最後に、本書発行に際して快く原稿を引き受けて頂いた執筆者の方々、並びに出版を支えて頂いた株式会社エヌ・ティー・エスの皆様に感謝する次第である。
2004年 初冬 編集者代表 小池康博
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