発刊にあたって

 2000 年に刊行された『表面処理技術ハンドブック─接着・塗装から電子材料まで─』(監修:水町 浩, 鳥羽山 満,編集幹事:内藤壽夫,潟Gヌ・ティー・エス)は,各方面から好評で,在庫も底をつき,続 刊や改訂版の問合せが相次いだと聞いている。
 本書は当初,こうした期待に応え,『表面処理技術ハンドブック』の新訂版として企画された。しかし, この分野の基盤となる表面・界面の最近16 年間の科学技術の進歩には目を見張るものがある。例えば, 筆者の分野では,表面・界面技術がキーとなる多成分多相系の高性能ポリマーアロイや先端複合材料の三 次元構造が観察・分析可能な電子線トモグラフィ(3D─TEM)が現れ,原子間力顕微鏡を発展させたナノ力 学物性マッピングでナノスケールでの弾性率,粘弾性,粘着特性まで解析可能となってきた。
 そこで,これらの科学技術と新しい情報,海外事情などを出来るだけ取り込み,新企画として,『表面・ 界面技術ハンドブック─材料創製・分析・評価の最新技術から先端産業への適用,環境配慮まで─』と題 するハンドブックを発刊することとなった。特に,「表面・界面形成技術の進歩」,「表面・界面形成過程 の予測」,「表面・界面分析の進歩」,さらに「表面・界面技術から見た日本の先端技術」,「安全や環境に配 慮した表面・界面技術」に集中し,この分野で世界的に活躍しておられる著名な産学官の140 名を超える 先生方に執筆をお願いした。超多忙な先生方が多く,企画から出版まで時間がかかってしまったが,この 分野では,日本はもとより世界で初めての書名(英文タイトルは“Handbook of Surface and Interface Technology”)となったことを誇りに思っている。
 しかし,本書の性格上,この分野はノウハウに関する技術も多く,企画のねらいが充分に達成できなかっ た部分もある。その原因の1 つは,一部産業界に見られる内向きな姿勢である。情報は,お互いに交換し あってより価値が高まるが,社外発表が制限される時代となりつつあり,寄稿したくてもできないという 事態に多く遭遇したのは残念としか言えない。むしろ,そのようなケースが多いほど,このハンドブック の価値は高いと思っている。その一方,本書では,前身の表面処理技術のハンドブックには無い内容も多 く取り入れる努力をした。例えば,これからの日本を支えてほしいという願いを込めて,エネルギー,食 糧,医療などの分野でも表面・界面技術が重要であることを収録している。
 また,出版社としては本書の購読者には,今なお価値を失っていない『表面処理技術ハンドブック』に電 子媒体でアクセスできる利便を提供するべく具体的な努力を始めているという。
 21 世紀が15 年程経過して,日本の産業構造は大きく変化した。また,それを支えてきた科学技術の世 界の変化も著しい。一部を除いて日本の半導体産業は驚くほど衰退し,家電の世界では台湾,中国に身売 りされる報道など,想像もしなかったことが発生している。国家予算の構造まで激しいほど変化し,いま や健康,医療,介護への予算配分が一般会計の約3 割となり,科学技術・文教予算の約6 倍にも及ぶ。
 日本の近代は,科学技術に支えられた輸出が大きな柱であったことを思うと,今後のことが大いに憂慮 される。最近,アジアにあっては日本のノーベル賞受賞者数は,他を圧している。しかし,これは過去の 遺産の一つに過ぎないのではないだろうかと危惧している。一方,メデイアの世界もインターネットの普 及による変化が顕著となった。若年層の文字離れ(特に紙媒体離れ)によって出版界や新聞業界は苦境に立 たされている。専門書の世界はその影響が特に著しい。インターネットの発達,利用はもはや不可欠な時 代となっている。しかし,インターネットを活用し,玉石混交,虚実入り混じった情報から役立つものを 選択するのは簡単ではない。さらに,インターネットで未来につながる情報を得るのは容易ではない。
 そのなかにあって,潟Gヌ・ティー・エス代表取締役吉田 隆氏は,理工学図書,ハンドブック出版の 社会的意義を確信して懸命な経営的努力を継続してこられた。編集幹事,編集委員,執筆者と多くの方々 がご多忙を極める中で,これに応えてくださったことに改めて深く各位に感謝するとともに,本書が今後 の我が国の産学に貢献できることを心から祈っている。
 本書の発刊には紆余曲折があったが,企画・編集の実務に携わった内藤技術士事務所所長内藤壽夫氏や 潟Gヌ・ティー・エス編集部の大湊国弘氏の奮闘もあって日の目を見ることとなったことを監修者として 深くよろこび,産学官を通じて研究者,開発者,技術者,企画者などに役立つことを心から期待している。

  2016 年3 月吉日
 監 修  西 敏夫
Handbook of Surface and Interface Technology
表面・界面技術ハンドブック
〜材料創製・分析・評価の最新技術から先端産業への適用、環境配慮まで〜
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