発刊にあたって

本書では、マイクロ波加熱の具体的な応用事例を数多く掲載し、種々の産業応用に活用していただく事を目的としている。マイクロ波プロセスは、従来技術に比べて消費エネルギーを1桁ほど低減できるといわれており、処理時間を大幅に短縮させ、生産性を革新的に向上させる手法として期待されている。今まで無理とされてきた金属粉末もマイクロ波加熱できるようになってきており、従来から用いられているゴムの加硫、木材や耐火物の乾燥、食品の加熱・解凍などから、新たな応用分野としてマイクロ波化学、新規材料創製・プロセス技術、医療応用、自動車を含めた環境エネルギー分野まで、マイクロ波技術の適用範囲が拡がってきている。
 マイクロ波加熱は食品を中心とした電子レンジとともに発展してきたが、ここ10年をみると目覚ましい進化を遂げており、2007年に設立された日本電磁波応用エネルギー学会JEMEAの貢献が大きい。1994年に「マイクロ波加熱技術集成」が、さらに20年後の2014年に「最新マイクロ波エネルギーと応用技術」が発刊され、それぞれの時代の工業用マイクロ波応用技術が紹介された。今まで、マイクロ波は単なる熱による反応と思っていた人も多かったが、ここ数年でマイクロ波の非熱的効果(特異効果)の実証例が着実に増えてきている。また、均一加熱とスケールアップが課題であったが、マイクロ波化学の分野では大規模な事業化が図られており、新たな技術革新により従来のマグネトロンから半導体発振器に置き換わる動きがあり、マイクロ波技術の信頼性と量産性が一気に高まる機運がある。
 今回は、現在進行形の最新技術を重点的に取り上げ、既に実用化されている技術、今後近いうちに実用化されるであろう技術を中心に、マイクロ波加熱の応用事例について執筆してもらった。本書では、マイクロ波加熱を理解していただくために、基礎編として材料プロセッシングと誘電率透磁率の基礎、装置設計に関する電磁波理論を分かりやすく解説してもらい、その後に応用編の構成とした。本書を通して、マイクロ波の魅力を感じていただき、使える技術として、この分野の最新動向を把握していただければ幸いである。
2017年4月
 福島 英沖(株)豊田中央研究所
 
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