炭素繊維・炭素繊維複合材料の未来
= 趣旨 =

 丈夫な材料の追求が行き着く先は,金属でもセラミックスでもなく,高分子や炭素材料のように
軽元素が共有結合した材料であり,それらは必然的に軽量材料である。その理由をKelly が名著
STRONG SOLIDS(Oxford University Press)の中で記している。そして,このような材料は一旦
繊維状にして,高次の集合構造を付与し,それらを再び結合して作られる繊維強化複合材料は,
物質の力学的性能を極限まで引き出せる可能性を秘めた極めて巧みな物質の利用形態であり,
原料から最終製品を直接成形する方法では得られない数多くの利点を有している。まず,繊維状に
することは単に細く長くしているのではなく,これにより高い分子配向や結晶化度が得られている。
また,例えば板ガラスがどこか一ヶ所の傷を起点として一気に破壊するのに対して,ガラス繊維の
集合体では何本かの繊維が破断しても全体の破断に至らないという寸法効果が発現する。繊維状に
することによって固くて丈夫で加工し難い材料を自由な形状に成形することが可能になり,繊維の
方向を工夫することによって異方性のコントロールや等方材料にはない変形挙動を取らせることも
できる。繊維─マトリックス界面を利用した物性のコントロールも可能である。
 炭素繊維には丈夫さや軽さ以外にも,繊維軸方向の熱膨張係数が負であること,熱伝導率が高く,
中には銅の2倍を越えるものもあること,導電性を示すこと,X線吸収率が木材の1/2 以下であること
など,様々なユニークな特性がある。熱膨張しない大型電波望遠鏡など,これらの特性を活かした
多様な分野への応用展開が今後益々盛んになると予想される。炭素繊維及びその複合材料は未来に
向けて発展し続けるであろう。
 本書は,炭素繊維及びその複合材料の研究開発においてポイントとなる事項,基本的なコンセプト,
種々の評価・解析手法,最先端の製造技術,研究開発動向,将来展望などについて,各方面の最前線で
ご活躍されている方々からご提供頂いた貴重な情報の集大成である。

                             (塩谷正俊「はじめに」より抜粋)
 
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