空間立体表示とユーザインタフェース
= 趣旨 =
 われわれ人間は、外界から得る情報の約80%を視覚から得ていると言われている。さらに、われわれは、左右の目から得られる視覚情報をもとに外界の3次元情報を得ている。そのため、人間にとって最適な情報提示手段は立体映像を用いたものであるといえる。本書は、このような立体映像の表示技術とこれを利用したユーザインターフェイス技術に関連する内容を一冊にまとめたものである。
 本書は、日本でトップの研究者や開発者の方々に執筆頂いた。著者の方々には、お忙しい中、執筆をご快諾頂き、玉稿を賜ったことに感謝の意を表したい。技術内容に関してだけでなく、研究や開発に対するそれぞれの著者の思いが述べられていることが本書の特徴である。本書は、現在の日本における立体映像に関連する最高の叡智を集めたものになっていると確信している。なお、それぞれの著者の生の言葉を伝えるため、本書では敢えて用語の統一は行わなかったことを付記する。
 現在のところ、立体映像が活用されている分野は限定的である。立体映像の利用が与えるメリットがデメリットを上回る分野において利用が進んでいる。内視鏡手術やロボット支援手術などの医療分野においては、立体映像は既に必須の技術になっている。自動車設計などの工業分野においても、立体映像の利用は一般化している。これらの分野では、立体メガネを用いた立体表示が用いられるが、立体メガネをかけることの不便さに対して高精細な立体映像がもたらす利益が上回っている。一方で、3D元年と言われた2010年頃に、電機メーカー各社からメガネ式の立体テレビが発売されたが残念ながら不発に終わった。立体メガネをかけることの不便さを、当時の技術が提供する立体映像の魅力が上回ることができなかった。最近はVR元年と言われていて、ゴーグル型の2眼式立体表示の実用化が進んでいる。広視野化、高解像度化、トラッキングによる運動視差の実現などの技術開発が進められているが、視覚疲労や映像酔いなどの人間に与える影響の問題は未解決のままである。メガネなしの裸眼立体表示に関しては、携帯型ゲーム機などで実用化されているが、小画面でシングルユーザ用であるため、他分野への広がりは限定的である。大画面で多人数向けの本格的な裸眼立体表示については、解像度が低い、視域が狭い、情報量が多いなどの課題が山積している。2030年頃を目指して開発が進められている立体テレビ放送を実現するためには、これらの課題を解決し、立体映像のメリットがデメリットを上回る必要がある。本書は現在の立体映像技術のスナップショットとなっているが、これらの課題を解決するヒントを与えるものとなれば幸いである。
(空間立体表示とユーザインタフェース:序 高木康博 より)
 
空間立体表示とユーザインタフェース Copyright (C) 2019 NTS Inc. All right reserved.