基礎から学ぶ磁性材料 〜上手に利用するための基礎理論から測定法・応用の実際まで〜
 本書「基礎から学ぶ磁性材料」は、セミナー・講習会などの参加者から要望の多い磁性材料に関して、磁性の基礎知識に立ち返って、磁性材料の作製技術、材料評価技術、実際の応用事例までを広くカバーする目的で刊行するものである。

 磁性材料は、大きく分けて軟(ソフト)磁性材料、硬(ハード)磁性材料、半硬質磁性材料に分類される。

 磁化曲線の立ち上がりが急峻で、ヒステリシスの幅(保磁力)の小さな磁性材料は、軟磁性材料と呼ばれる。軟磁性材料はモータの巻き線による磁界を増強する磁心や、変圧器の磁心、無線給電装置などに使われている。5G 通信時代、IoT時代を迎え、市場規模は小さいが、高周波インダクタや遮蔽材料への需要が増大している。ある調査によれば、2018年の軟磁性材料の市場規模は473億USDで、2026年には872億USDに伸びると予想されている。

 一方、磁気ヒステリシス曲線が囲む面積が大きい材料を硬磁性材料と呼び、永久磁石として用いられる。永久磁石はモータの主要部品で、自動車の電動化の進行とともに年率8.8%で伸びていて、2021年には226億USDに達すると見込まれている。

 また、半硬質磁性材料は、磁気記録の記録媒体として使われるが、記録密度の向上のために硬質磁性材料を用い、熱アシストやマイクロ波アシストによる記録が模索されている。読み出し磁気ヘッドにはトンネル磁気接合というスピントロニクス材料が使われる。さらに将来のユニバーサルメモリとしてスピントロニクス材料を用いた磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)が開発されている。

 本書は、第1章「磁性材料を正しく理解するために」、第2章「各種磁性材料の特性 ・開発動向と市場」、第3章「計測・ 測定法」、第4章「利用・応用事例」から構成される。

 第1章では編纂者である筆者が、第2章以降に記述される磁性材料の基礎知識を述べる。第2章以降は、各分野の第1線の研究者に分担執筆していただく。第2章では、硬磁性材料、軟磁性材料、スピントロニクス材料についての開発動向を述べる。第3章では、磁性材料開発において重要な計測技術について述べる。磁力計・磁気共鳴装置など基礎的な計測法に始まり、磁気光学顕微鏡、プローブ顕微鏡、電子顕微鏡による計測とイメージング、さらには放射光を用いた最先端の計測評価技術も紹介する。第4章では、具体的な利用に必要な技術を詳しく述べる。モータ駆動、パワーコンバータ、ワイヤレス給電などのパワー応用、高周波インダクタ、電波吸収・遮蔽などの高周波応用、磁気記録への応用など広範な応用事例を扱う。

本書が、磁性材料の技術開発に携わる各方面の研究者・技術者の指針になることを願っている。


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基礎から学ぶ磁性材料 
〜上手に利用するための基礎理論から測定法・応用の実際まで〜
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