弾性波デバイス徹底解説
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 圧電現象を利用した民生用弾性波デバイスでは,水晶や圧電セラミックを用いたバルク波(BAW)の共振子やフィルタなどが古くから実用化されてきた。一方,弾性表面波(SAW)については,1885年のレイリー波の発見以来,弾性表面波(SAW)の研究は長い歴史があるが,民生品への応用は歴史が浅く,1960年代のすだれ状電極の発明と1970年代のテレビの映像中間周波数用フィルタにSAWを応用した論文の報告以降,全世界の多くの研究機関や産業界でSAWフィルタの開発・実用化の取り組みが始まった。LiNbO3(LN)やLiTaO3(LT)の単結晶,ガラス基板上の酸化亜鉛薄膜,圧電セラミックを用いたトランスバーサル型SAWフィルタが,民生用にはじめて実用化された。

 その後,携帯電話やスマートフォンの登場により,小型,高周波,高性能な高周波フィルタが要求され,それらに適したAlN多結晶薄膜を用いたBAWフィルタやLNやLTを用いたSAWフィルタが開発され,今では,それらの機器に欠かせないキーデバイスとなっている。 近年のスマートフォンの普及により,(1)第4世代では多バンド化のため,使用周波数帯(バンド)がより細かく配置され,(2)高速・大容量中心を目指した第5世代では,より高周波帯が使用されている。前者(1)では,従来特性より高性能な特性が要求され,その特性を満足する新しい構造のSAWデバイスが開発されている。後者(2)では,従来に比べ高い周波数デバイスとして,板波,音響多層膜構造縦波漏洩SAW,高調波SAWなどの高周波デバイスが研究されている。今後もスマートフォンなどの移動帯通信には,弾性波デバイスはますます,重要な役目を果たすものと考える。

 BAWおよびSAWの弾性波デバイスを解説した本は今までも多く出版されているが,それらの本には上述のような新構造SAWデバイス,高周波SAWデバイス,高周波板波デバイス,高周波用単結晶BAWデバイスなどについてはほとんど記されていない。本書ではそれらに加え,BAWやSAWを学ぶための基礎的な内容,開発・実用化に従事された執筆者による実用化されたデバイス,今後期待されるデバイスなどについても記されており,豊富な内容になっている。御多忙にもかかわらず御執筆いただいた方々には,深く感謝致したい。本書が新しいヒント,アイデア,あるいは新製品開発などにつながれば,非常に大きな喜びである。 

 (門田道雄「はじめに」)
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