発刊にあたって

 21世紀の日本経済や,社会を支えるエネルギーの戦略策定に関する提言が,昨年暮れに(社)日本エネルギー学会を中心になされました。その中で強く求められているのは,天然ガスの総合的高度利用ということであり,三つの策定を挙げております。1番目として天然ガス資源の技術戦略の策定,2番目として天然ガスの安定した合理的輸送技術の推進,3番目として天然ガスの高度利用技術の開発・推進と国際社会への貢献であります。
 天然ガスのクリーン性を生かして,次世代の新しい炭素資源として,輸送用燃料に適した液体化や石油化学産業の基幹原料を造り出す触媒化学技術は,現在世界的に重要な課題になっており,日本国内においても,近年こうした天然ガスの高度利用のための触媒化学変換技術に関する研究が,質的・量的に増大しております。
 すなわち,メタンを利用したエチレンやベンゼンなどの石油化学原料製造,直接・間接法によるメタンの液体燃料化技術(GTL),メタンを利用したDMEやファインケミカルズ合成,改質反応や直接脱水素縮合反応による水素製造技術など,天然ガス化学の基礎と応用の目覚ましい展開が進んでいます。
 このように,21世紀の環境・エネルギーの“切札”として注目を集めている天然ガスでありますが,バイオガスやメタンハイドレートなど新しいメタンガス資源を含めて,利用技術から次世代の天然ガス化学産業や水素エネルギー利用(プロトニクス産業,燃料電池,クリーンエネルギーシステム)までを広くカバーする書籍は今までにありません。そこで企画にあたっては,21世紀に期待される天然ガス高度利用技術に焦点を置いた技術集成を目標とし,従来技術の紹介にとどまらず,「天然ガス高度利用技術上の最近の開発研究の最前線」に関する最新データと技術内容について,各分野の大学・研究所の研究者のみならず,とりわけ産業界でご活躍のエキスパートに執筆を担当していただくことといたしました。
 本書が天然ガスの高度利用技術の普及と展開に結び付き,国内外の環境・エネルギー開発や化学産業振興に向けての一手になれば幸甚であります。
2001年4月10日  監修者 市川  勝
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