発刊にあたって

 本書は、エネルギー貯蔵デバイスとして電池と並び大きな注目を浴びているスーパーキャパシタ(電気化学キャパシタ)に関する集大成“Electrochemical Supercapatictors”(Brian E.Conway著:1999年出版)の翻訳である。ご存知のようにこれからますます増えるエネルギー需要に対して、化石燃料の限界、地球温暖化、環境破壊など早急に解決しなければならない深刻な問題にわれわれは直面している。そのような状況の中で、エネルギーシフト問題とどのように向き合いどういう選択をするにせよ、メンテナンスフリーで環境負荷の小さい電気化学キャパシタは、欠くことのできない最も重要な鍵となるデバイスである。その応用は、電子部品や携帯小型機器の電源から電気自動車や燃料電池車へと幅広く、可能性に満ちている。とくに日本は実用化へむけた研究開発で先進的な役割を果たしており、世界のリーダーとしてこれからの躍進が大いに期待されている。
 著者のBrian E.Conway教授は、電気化学、物理化学の分野で世界的に著名な研究者である。現在、カナダのオタワ大学でEmerritus professo(名誉教授)として教鞭をとられ、毎年12月にS.Walsky氏、M.Nicola氏らが主催するフロリダキャパシタセミナーの中心的存在である。このフロリダセミナーは、昨年(2000年)で10年目になる。世界から多くの参加者を集め、年を追うごとに盛況になっている。原著は、そのセミナーの内容をまとめたものである。そもそも翻訳をはじめる契機となったのは、私たちがフロリダセミナーに何度か参加してConway教授と知り合いになり、いろいろと親しく話をしていて原著の出版予定を知ったことによる。日本の研究者に広く紹介して読んでもらいたいと思ったことと、私たちにとっても一から勉強し直す良い機会だと思い、翻訳を願い出たところ大変喜んでいただき快諾してくださった。
 内容は多岐にわたっており、かなり専門的な部分も含んでいる。キャパシタのみならず、電気化学的なエネルギー貯蔵一般に関する歴史、基礎的(学問的)背景、先端材料の紹介、デバイスへの応用、さらには特許を取り扱った世界で初めての集大成である。この分野の専門家のみならず初心者、大学院レベルの参考書、導入書として、また21世紀に発展が予想されるソフトエネルギーの解説書としてお役に立てれば幸いである。
 翻訳原稿の監訳チームとしては、森本剛氏(旭硝子)をはじめ、高須芳雄先生(信州大学)、森田昌行先生(山口大学)、宇恵誠氏(三菱化学)、石川正司先生(山口大学)、白石壮志先生(群馬大学)などこの分野でご活躍中の先生方にご協力をお願いした。お忙しいにもかかわらず翻訳作業と同時に、専門的なお立場から綿密な内容吟味、用語の統一など原稿の細かいチェックをしていただいた。また、末松俊造先生(東京農工大学)、森満博氏(日本電気)、島田晶弘氏(東京農工大学)、直井研究室大学院の学生さんには、翻訳原稿の整理と、大量の日本語校正などを手伝っていただいた。
 最後に、出版に際して何度も編集委員会を開いていただき、お世話になった(株)エヌ・ティー・エス吉田隆社長、林恵子さんには、この場を借りてお礼申し上げたい。
2001年4月1日   東京農工大学 直井 勝彦
西野技術士事務所 西野  敦
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