推薦の言葉


【富山県立大学 石塚 勝 氏】
 1970年から1990年ごろまではスーパーコンピュタの発展が目覚しく、その際どうやって発熱するLSIを冷やすかが大問題になり、また冷却技術がスーパーコンピュタの性能を左右した時期である。いわば熱技術者にとっては花の時代であった。 その後、高速・省電力LSI素子の開発により、コンピュターは分散化さらにはパーソナル化に移行し、小型で高密度実装のデスクトップPCが開発された。しかし、パーソナル化からモバイル化に伴いノートPCに機器の主流が移行したあたりから、ノートPCは高度なアプリケーションソフトが要求する動作環境レベルの上昇に伴い、常に高性能化を求められ、その結果消費電力は増加の一途を辿っている。そのため、機器の温度は何もしなければ大変な高温になり、デバイスの破壊へとつながる。これが、今のPCに代表される電子機器全体の熱問題の傾向である。 そのため現場の熱技術者は以前とは違う大変に難しい対応を迫られている。 具体的には、下記の事項を視野に入れなくてはならない。
1.デバイス温度を下げる熱対策技術の開発
2.デバイス温度上昇を予測する熱流体解析技術の開発
3.熱を通しやすい(または遮断する)材料の開発
4.コスト削減の対策
5.電磁波対策
6.騒音対策
 このように電子機器の熱設計・対策は広範で奥深く、大変手間の要る作業である。そこで、熱技術者のための参考資料が必要になるが、前述したように、その熱設計・対策は広範で奥深いため、これらを網羅した資料は皆無といってもよい。 このたび、本書の刊行に当たっては、前述の状況を踏まえ、電子機器の熱設計・対策に関連している第一線の技術者と研究者を執筆者に迎え、できるだけ漏れのないように項目を選定した。そのため多数の執筆者のご協力を得ることになった。本書は、わが国における電子機器の熱設計・対策に関する初めての広範にまとまった書籍および資料集であり、関係者のみならず、これから熱技術を学ぼうとする方々にとっても有益な情報を提供するものと確信する。

【材料技術研究所 渡辺聡志 氏】
 民生用電子機器内部で発生する熱が、多様な弊害要因としてクローズアップされたのは1990年代になってからである。高性能化の一途をたどるCPUは、見方を変えれば歓迎すべからざる発熱源でもあった。この技術対応として、エラストマーに熱伝導性を付与した高分子系の材料群と、超小型ヒートポンプや水冷システムなどの機械系機構の研究が進んだ。前者は、0.4[W/(mK)]程度であった熱伝導率を10[W/(mK)]近傍にまで高め、後者では静音技術などと関連させた数々の提案があった。このような技術の進展に伴って熱対策技術の確立が成されたかと問えば、現実はむしろ逆であり、足踏みの期間が続いた。その理由に「熱抵抗」という、異種界面に必ず付きまとう基本的な律速因子克服のための、技術的方法論が未構築であったことが挙げられる。熱伝導率は高いが陶器片のように硬いゴムよりも、発熱源に密着する柔らかい、しかし熱伝導率は1〜2[W/(mK)]程度の仕様の方が有効な解決策になるというのが現実である。そのことを業界として学習するまで、ほぼ10年の歳月が流れた。最近は熱対策に、それまでの熱伝導率や発熱量の因子以外の問題を捉える傾向が見られ、包括的な対応が展開され始めてきた。
 熱対策とは多角的な視点と、分野を超えた技術が共に必要な複合技術課題である。放熱・冷却に携わる技術者は、普段接することのない分野の技術情報が不可欠となる。そのための信頼に足る情報源として、本書が編纂された意義は大きい。熱対策の理論と技術の総括を上巻に据え、さまざまな機器や装置の具体的な熱対策の各論を下巻に網羅した構成は、異分野を継ぐ多面的な技術情報の集大成でもある。従来の成書に欠けていた最新の熱伝導率測定法や、医学的問題、特許概要までもが網羅されており、どのような技術課題に直面しても、解決を示唆する項目に出会えることと思う。また、全巻を通読すれば熱対策技術の奥深さと、その重要性も浮かび上がるはずだ。 材料設計や機器設計に携わる人々にも重要な内容が多く、熱対策技術者にとどまらず広く購読を勧めたい。
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