はじめに

 2014年12月、トヨタ自動車が燃料電池車を世界に先駆けて発売、これを契機に「水素社会」が大いに現実味を帯びてきました。直近の議論では、「水素社会」よりは「水素利用社会」と言った方が、より現実的に水素の持つ特性を生かせるのではないかという議論もあります。いずれにせよ、本格的な水素社会の到来までには時間を要しますが、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックをひとつの目標として水素社会の実現に向けた第一歩を踏み出そうとしています。
 2015年5月28日、29日に開催された第22回燃料電池シンポジウム((一社)燃料電池開発情報センター、FCDIC)でのFCDICとHESSのジョイントセッションでの橘川先生からの貴重なご提言がありました。「『水素村』を作ってはいけない。エネルギーの全体最適化を見るには、他との連携が必須。」卵が先か、鶏が先かとも長年言われてきましたが、今まさに「花とみつばち」の状況が、産官学の努力で生み出されようとしています。直近の7月1日にはトヨタ自動車、日産自動車、ホンダの3社が、燃料電池車用に水素を充填する「水素ステーション」の整備を共同で支援すると発表。6月中旬には、経済産業省が、2016年にも電力会社の天然ガス火力発電所を使った「水素混焼発電」の実用化に向けた調査開始予定を発表、ますます「水素社会」へ向けた動きがあわただしくなっています。
 弊社では、正に水素社会元年の本年2月下旬に、水素エネルギー関連技術とシステムの研究開発と普及啓蒙に長年にわたって取り組んでおられる水素エネルギー協会(HESS)のご協賛のもと、現状及び2020年までの水素社会構築の展望に関するセミナー「水素社会実現に向けた水素エネルギー技術とビジネス展望」を実施いたしました。本書では、セミナーの内容をベースに、情報の更新と追加を行いました。主な特徴は次の通りです。
 ・HESS会長亀山秀雄先生に最新情報を更新いただきました。
 ・「水素社会の実現に向けた東京戦略会議」で座長を務められた、東京理科大学教授橘川先生
  (2015年4月より)に東京都の挑戦などに関するご紹介いただきました。
 ・家庭用燃料電池「エネファーム」:パナソニックおよび東芝燃料電池システムからご寄稿をいただきました。
 ・欧州在住の研究員(SetukoSchewarzer氏)による、欧州における燃料電池関連の動向をご紹介いたします。
 ・急速に立ち上がりつつある水素ステーションの状況、補助金政策などもご紹介します。
  セミナーでお話いただきました、
 ・無機系水素貯蔵材料の現状と課題(九州大学秋葉悦男先生)、
 ・水素エネルギーの大規模貯蔵輸送システム(千代田化工建設岡田佳巳氏)、
 ・CO2フリー水素サプライチェーン構想と関係技術(川崎重工吉村健二氏)、
 ・燃料電池自動車の要素技術の動向(日本自動車部品工業会松島正秀氏)、
 ・社会受容性向上に関するお話(東京工業大学西條美紀先生)もご紹介いたします。
さらに規制緩和を含む最新の水素ステーションの状況なども、弊社での取材を通してご紹介いたします。この機会に、是非ご購入をご検討ください。
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