=趣旨=

 電気エネルギーは輸送性、利便性が特に高いことから、電力系統という広域ネットワークを形成し、広く社会に浸透している。エネルギー創造の分野では、低環境負荷化や石油・石炭に代表される化石燃料への依存度の低減に向けて、太陽光、風力の利用に関する研究開発が進んできており、またエネルギー消費の分野においても、例えばガソリン・ディーゼル車から電気自動車へなど、電気エネルギーの利用がますます増えている。特に2017年は、電気自動車の開発に向け大きく進展する年となった。世界最大の自動車市場である中国は、大気汚染対策もあってハイブリッド車を飛び越えて電気自動車シフトへ舵を切った。フランスでは、2040年までに国内でのガソリン・ディーゼル車の販売を禁止する方針が示され、ノルウェーに至っては2025年までに全車を電気自動車に切り換えると打ち出した。これに伴い、日本、ヨーロッパ、アメリカ、さらには中国メーカーまでもが電気自動車開発に大きくシフトし始めることとなった。このように、今後も電気エネルギーすなわち電力への依存度は堅調に上昇し、将来的にも電力がエネルギーの中核をなすものと考えられる。われわれの明日の社会が持続可能な発展を遂げるためには、この電力エネルギーを効率よく利用することが必須であり、それを支える最も大きな技術のひとつがパワーエレクトロニクスである。
 パワーエレクトロニクスとは、エレクトロニクスで電力を効率的に制御する技術のことである。具体的にはパワーデバイスを用いて電力を制御し、より使いやすい形に高効率で変換する技術である。パワーエレクトロニクスによる電力制御は、パワーデバイスによる低抵抗・高速スイッチング技術によって成り立っており、パワーデバイスの性能が電力制御の性能を左右すると言っても過言ではない。現在のパワーエレクトロニクスはシリコンパワーデバイスがその中心であるが、近年ではシリコンの物性値で決まる限界に近づいてきたと言われており、今後のパワーエレクトロニクス装置の高性能化に必ずしも対応しないのではないか、との懸念も示されている。
 この状況を打破する次世代素子として、SiC/GaNパワーデバイスが大いに期待されている。そしてその一部は、すでに電源分野や家電さらには電鉄分野などに適用され始めている。しかしながら、性能、信頼性、さらには価格の面で市場の要求に十分応えられているとは言えない状況にある。
 本書『SiC/GaNパワーエレクトロニクス普及のポイント』では、近い将来のパワーエレクトロニクスの主役となるSiC/GaNパワーデバイスを広く市場に普及するためのポイントは何か、を軸に編集された。デバイス・プロセス技術、実装・応用回路技術だけでなく、自動車・太陽光発電用途での課題と対策、受動部品さらには規格や国際標準化についても詳細に紹介している。さらには今後のパワーデバイスの市場動向についてまで詳しく解説しており幅広い内容を網羅することができた。環境にやさしく、かつ高効率な電力利用社会の本格的な実現に向けて、SiC/GaNパワーデバイスの浸透を加速するには今後何をすべきかに、本書が役立つことを大いに期待したい。(岩室憲幸「はじめに」)
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