全固体リチウムイオン電池の展望 〜正・負極材と材料・部材のパラダイムシフト〜
= 刊行にあたって =

 本書は、「全固体リチウムイオン電池の展望」と題して、正・負極材および材料・部材のパラダイムシフトをテーマにした。いささか木に竹をつないだ様な違和感がある内容かもしれないが、全固体電解質の開発を一過性と見るか、あるいは中長期を見据えた事業化の課題と捉えるか、実務者の立場でかなり温度差はあろう。
 この2,3年でEVを含むリチウムイオン電池の状況は劇的に変わった。メインは欧米とアジアにおける、脱ガソリンZEV化である。その実現性を危ぶむ声は、以前よりはかなり小さくなっている。むしろ行くとところまで行ってみよう、というスタンスが多勢であろう。
 ここでの不安定要素は、1.安全性、2.コストと3.Co やLi の資源である。特に安全性は可燃性の有機電解液を使用した二次電池として、その性能が高くなるほど、問題解決のハードルが高くなってきた。1991年に始まったリチウムイオン27年の歴史の中で、電解液に関する、原理的なブレークスルーは何もない。
 全固体電池・・燃えない、分解ガスの出ない無機物質である固体電解質の利用は、安全性への切り札でもある。そのサイエンスとテクノロジーは過去の膨大な研究を背景に、この数年で実用化への芽が出て来た。2018年にトヨタ自動車がその実用化へ乗り出したのは、極めて象徴的である。
 一方で2つの考え方、A.現在の延長線上の液系電池で、10〜20年先のEV化をカバーできる。B.今の内に全固体電池にシフトしてしまった方が賢明である。何れが正解であるかは、日本がその技術で回答を出す立場ではなかろうか。コピー技術であるアジアや欧米のメーカーが、前記A.の本質を理解してとは思えないし、B.はいずれはアジアに技術がコピーされるとしても、日本以外にそれを実現させる可能性はないであろう。
 筆者はSONY鰍フリチウムイオン電池の創生時から、電池材料と製造に関わって来た。その後はポリマー電解液も担当したが、全固体電解質に関しての実務経験はない。この経緯から、現行の液系リチウムイオン電池が、ある意味でのボトルネックから抜け出せない状態である、との感を強く持っている。
 現時点で、全固体電池の実用化と工業生産に、否定的な見解を示す方が妥当ではあろう、しかしながらEVの拡大で仮に1,000万台/年、1,000GWhレベルを、現行の液系電池でやり切れる否かも、はなはだ疑問である。液系電池の、特に電解液系の“不合理性”を、全固体電池のもつ多くの“合理性”でカバーして行くとの解決に期待したい。目的はEVであり、電池は消耗するデバイスに過ぎない。
 本書では上記の問題点を中心に、可能な限り数値で定量的に試算して考察を加えた。工業製品としての試算には、ケースバイケースの再計算に対応するために、全て算定の条件とその過程を示した。本書が関連業界の方々に、選択肢のヒントを示すことができれば幸いである。
調査・執筆:菅原秀一
企画・編集:シーエムシー・リサーチ
全固体リチウムイオン電池の展望 
〜正・負極材と材料・部材のパラダイムシフト〜
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