EVワールドIII 激変期のEV&電池生産の中長期課題と展望
= 刊行にあたって =

 本書は前書「EVワールドU 元素資源・正負極材と電池生産のマッチング」(2019/09発行)の続編である。その内容を引き継いで、原材料>電池>EVの流れの最終段階を扱う。本書の技術や市場のデータは、2018年から2019年を基礎としているが、この間の世界情勢の変動は激しいものがあった。更にはCorona Virus Crisisの突発で、先行きが見えない状況となっている。

 2019年世界で約215万台のEV+PHVの生産と、そこに搭載された約100GWhのリチウムイオン電池は、10年前には想像もできなかったレベルである。元より自動車の電動化は、化石燃料のCO2による地球温暖化の抑制が最大の目的である。一方では世界の技術と経済の中で、自動車ビジネスの覇権争いと企業の生き残りが掛かっている。
 本書の前半では電池の生産、技術と特性を、二次電池工学的な観点から解析し、改良点を考えて行きたい。エネルギーとパワー特性のバランスやサイクル寿命など、現状の技術が必ずしもEV用途に十分とは言えない。原理的なブレーク・スルーと技術進歩が達成できないままで、電池の生産計画は拡大の一途である。電池の安全性の問題も同様である。

 本書の後半ではEVの“電費”すなわち、電池の電気エネルギーと自動車の走行kmの問題を主に扱う。ここで生ずる矛盾は、化石燃料で発電した電気を充電して走るEVは、電気自動車ではなく、“石炭(石油)自動車”であろう。試算とデータ解析としては、EVの充電電力の“CO2負荷”試算を行ったが、HVやFCVとの相互比較では、EVの優位性は十分とは言い難い。

 10年後の2030年に、EVが年間1,000万台(世界)、電池の総GWhで500〜800GWhに達することが一つの通過点であろう。この段階では、ガソリン車の大部分はEVで置換えられ、CO2発生も大幅に抑制される。課題はそこまで到達できるかの“力”であろう。そのためには2020年から対前年比130%の拡大を、10年間継続することが条件となる。

 本書では以上の内容に関する、EV用リチウムイオン電池の実用特性や、EVの走行諸元とモード走行(JC08とWLTC)など、基本事項の解説を行い、資料も多く収めた。

 また特別寄稿として湯進(Jin Tang)氏(MIZUHO銀行)からグローバルな視点で、EVなどの市場動向に関するコメントを頂き掲載した。技術解析とのシナジー効果で、本書の企画テーマに迫れたものとその妥当性を期したい。

 本書がリチウムイオン電池とEVなどに関係する方々のお役に立てれば幸いである。

調査・執筆:菅原秀一/企画・編集:シーエムシー・リサーチ
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