カーボンニュートラルを目指す最新の触媒技術
= 刊行にあたって =

 地球温暖化は、想定していたよりも早く地球上の生態系に大きな影響を及ぼし始めた。地球温暖化による異常気象は、地球上に大きな災害をもたらし始めている。原因は、化石資源をエネルギーや化学品原料として用いてきた人為的な地球温暖化ガスの増加である。温暖化を抑制するためカーボンニュートラルを実現することは、文明を享受してきた先進国の義務である。カーボンニュートラルを実現するには、エネルギーや化学品分野では、二酸化炭素を排出しないこと、そして二酸化炭素を原料として使うことが必要である。エネルキーは化石資源の利用を止め、再生可能エネルギーに転換しなければならない。日本政府は2050年までに、温室効果ガスの排出ゼロを目指すことを宣言し、気候変動サミットでは2030年の温室効果ガスの削減量を13年比で46%削減することを発表した。第6次エネルギー基本計画では2030年の電源構成を再エネ36〜38%,原子力20〜22%,石炭19%,LNG20%,石油等2%,水素・アンモニア1%とすることが閣議で決定された。現在の再生可能エネルギーは水力を含め18%,原発は4%程度である。日本は、地政学上CCSは困難である。原子力発電もリスクが大きすぎる。バイオマス資源も少ない。その中で、再エネの導入が急速に進むと予想される。再生可能エネルギーからの水素製造は最も重要な課題である。太陽光や風力による再エネが増加することが予想される。人工光合成は究極の技術であるが、早期な結果を求めず着実に開発が進むことを期待したい。再生可能電力からはアルカリ電解、PEM、SOECそして共電解が実用化されつつある。大量に発生する余剰エネルギーから水素を製造し、メタンやLPG、e-fuelなどのエネルギーを製造したい。化学品ではCO2と再エネ水素からメタノールや化学品が製造できる。メタノールからはポリマーやほとんどの化学品原料になる軽質オレフィンを合成することができる。日本は、従来エネルギーに乏しい。エネルギーの大半を輸入に依存している日本こそ再エネに取り組まなければならない。不足のエネルギーは海外のグリーン水素をNH3やMCHなどのキャリアに転換して輸入しなければならない。2050年のカーボンニュートラルの日本は、再エネや再エネから製造されたグリーン水素、そして大気中のCO2がエネルギーや化学品の原料と成ることが予想される。石油精製設備もナフサクラッカーも無くなってしまう。そうすると、石油化学はナフサ由来のエチレンセンターではなくCO2とグリーン水素からの新しい化学センターに替わることになる。新しい触媒や発酵法などを用いたプロセスの開発が必要となる。

 一方、環境を汚染している廃プラスチックや廃棄物は貴重な炭素資源である。これらはリサイクルされなければならない。ケミカルリサイクルには触媒は必須である。今回、第一線で地球温暖化と闘っておられる先生方に最新の技術を紹介して頂くことになった。多くの研究員の皆様のお役に立てることができることを願っている。
室井城
カーボンニュートラルを目指す最新の触媒技術 Copyright (C) 2022 NTS Inc. All right reserved.