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= 刊行にあたって =

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『計算科学を活用した熱電変換材料の研究開発動向』の「刊行にあたって」を書かせて頂く。
身の回りにあふれている「熱」を有用な「電気」に変換する熱電材料の200年の歴史を変え得るブレークスルーが起きつつある。1820年頃にゼーベック氏に発見されたゼーベック効果は、材料にかけた温度差によって電圧が発生するものであるが、コンパクトに固体素子で電気を作り出せる利便性にかかわらず、熱電材料の変換能力不足などにより、現在までに広範囲実用化に至っていない。しかし、最近、無数のIoTセンサーを駆動するための自立電源や、カーボンニュートラルに貢献できる廃熱発電としての社会的な要請が非常に高まっており、新規な高性能材料や高性能化原理の開発、モジュールの要素技術の開発、温度管理技術の開発、などが進んでおり、広く実装される日が近づいていると考えられる。
上記の中で、熱電変換能力を決定する熱電性能指数の向上はやはり至上命題である。パラドックス的な物性の要請に応えるために、最高の材料制御の科学技術が要求される。フォノンを選択散乱する方法、また、通常電気伝導とトレードオフの関係にあるゼーベック係数すなわちパワーファクターの増強方法、の双方の開発が必要である。いずれに関しても、例えば、前者は、フォノンや格子に関する計算や、熱伝達に関する計算、後者は、線形応答理論などの種々の相関に関する理論的な描像や、電子状態、バンド構造に関する計算など、理論的な知見がますます重要になっており、高性能熱電材料の開発に欠かせないものになっている。
なお、当該書籍では計算科学の次の分野での第一人者および気鋭の若手の先生方にご寄稿をお願いした(敬称略)。
・ 第一原理計算:
1章 臼井 秀知(島根大学 助教)、黒木 和彦(大阪大学 教授)、
2章 宮田 全展(北陸先端科学技術大学院大学 助教)
・ 非平衡輸送理論:
1章 松浦 弘泰(東京大学 助教)、小形 正男(東京大学 教授、
2章 山本 貴博(東京理科大学 教授)
・ 格子動力学計算:
1章 只野 央将(物質・材料研究機構)
・ 分子動力学シミュレーション:
1章 吉矢 真人(大阪大学 教授)、
2章 下野 昌人(物質・材料研究機構)
・ モンテカルロシミュレーション:
1章 堀 琢磨(東京農工大学准 教授)、
2章 大西 正人(東京大学特任 助教)
・ 連続体シミュレーション:
1章 黒川 裕之(東京理科大学 研究員)、飯田 努(東京理科大学 教授)、他
・ マテリアルズ・インフォマティクス:
1章 藤井 進(大阪大学 助教)
本著は、計算科学を活用した熱電変換材料の研究開発の基礎、基盤技術から最先端の技術や動向を集約することによって、新規な高性能熱電材料の開発の加速に貢献することを目指している。読者の研究開発に少しでも寄与できれば幸いである。
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計算科学を活用した熱電変換材料の研究開発動向 |
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