カーボンニュートラルのためのグリーン燃料と化学品
= 刊行にあたって =

 約50年前の1971年の世界のCO2の排出量は141億トンであった。2000年には231億トンに増加し、2019年には336億トンになってしまった。CO2の排出量は、50年間で2.4倍にも増加し、更に増加を続けている。この数年間、地球温暖化による熱波や大洪水など異常気象現象が世界各地で頻繁に起こっている。温暖化ガスであるCO2の発生量を2050年までには実質ゼロにしなければ人類だけでなく地球上のあらゆる生命体の生存が危うくなる恐れがある。CCS(CO2の地下貯留)や化石資源を使わない原子力発電によるCO2削減対策は、地震の多い日本では、地政学上困難である。バイオマスも豊富にない。日本がCO2を削減するには、可能な限り太陽光や風力による再生可能エネルギーを導入し、CCUによりCO2をリサイクルして燃料や化学品を製造することである。幸いなことに、世界では太陽光発電コストが急速に安価になりつつあり、アルカリ電解だけでなく、固体高分子型(PEM)や固体酸化物形(SOEC)による電解水素の製造が工業化し始めた。メタンの熱分解によるターコイズ水素も工業化されつつある。欧州では、ロシアのウクライナ侵攻により、ロシアに依存しないエネルギーの自給が加速されている。

 日本の推進するエネルギー対策のための第6次エネルギー基本計画には、太陽光や、風力を用いた再生可能エネルギーを従来の倍以上大幅に導入することが示されている。再生可能エネルギーは不安定であるため、大量の余剰エネルギーが生じる。安価な再生可能エネルギーや余剰エネルギーを水素に転換し、CO2と反応させることによって、カーボンフリーのメタンや航空燃料等の液体燃料、そして化学品原料を製造することができる。石油化学の象徴でもある化石資源のナフサを用いた熱分解によるエチレンセンターはCO2と再エネ水素を原料とした新たな化学センターに変貌することが予想される。プラスチックは化石資源ではなく、リサイクルとバイオマスやCO2から製造されることになる。国内で不足するエネルギーは、海外の再生可能エネルギーをアンモニアやMCHなどのエネルギーキャリアを用いて輸入することになる。日本はエネルギーや化学品原料である化石資源を海外から輸入して高度成長してきた。しかし、これからのエネルギーや化学品原料は自ら日本又は海外で製造しなければならない。燃料や化学品を自製するという今までに体験したことのない変換を成し遂げなければならない。

 そのためにはグリーン燃料とグリーン化学品製造の国内外の最新技術を知り、日本のカーボンニュートラル実現に必要な技術の開発を急がなければならない。

 そのためにこの拙著が何らかのお役に立てることができればこの上ない幸せである。

室井 城
カーボンニュートラルのためのグリーン燃料と化学品 Copyright (C) 2022 NTS Inc. All right reserved.